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 最近、クレープ専門店やクレープを提供するパティスリーが増えています。しかも、テイクアウト可能な紙で巻いたスタイルが数多く、外が心地いい初夏にぴったり。青々とした木々の緑を眺めて頬張りながら歩けば、それだけでなんだか楽しく、幸せな気持ちになります。

 そして、使われている素材も上質感にあふれ、生地も作り手のこだわりがいっぱいで、味わい、見た目ともにその進化には目を見張るほど。今、足を運ぶべきクレープのお店をご紹介しましょう。

 今回は、クレープの概念を覆したレジェンド店の登場です。


ショットグラスを片手に食べるハイエンドなクレープ

 2014年、外苑西通り沿いに忽然と現れ、高級感あふれるハイエンドなクレープで旋風を巻き起こしたのが、「PARLA(パーラ)」です。ヨーロッパの街並みやバーをイメージしたという外観は、スタイリッシュな木造りで、まるで映画のワンシーンから抜け出してきたよう! 思わず体が引き寄せられていきます。

 「パーラ」を象徴するメニューと言えるのが、泡立てた生クリームを巻いたクレープと、ショットグラスに注がれたラム酒がセットになった、「Shot and Crepe(ショットラムと生クリームクレープ)」です。

 パーラでは、ラム酒やウィスキー、リキュールといったハードリカーが各種用意され、ショットグラスで提供。お酒をたしなみながらこだわりの詰まったクレープを味わうという、大人だけに許されたクレープの楽しみを堪能できるのです。

 差し出されたクレープとショットグラスを手にして、鼻孔をくすぐるラム酒の香りに誘われつつも、まずはクレープをパクリ。もっちりしながらもさくっと歯切れのよい生地は、芳しいラム酒の香りや皮ごと砕いて加えられたナッツの香ばしさ、焦がしバターの奥深い香り、卵のコクが重なり合い、贅沢な味わいにあふれています。

 そこにしっかり泡立てた乳脂肪分47%のミルキーな生クリームがムースのように寄り添い、ラム酒を口に含むとさーっと溶けて、芳醇な香りが口いっぱいに。シンプルでありつつふくよかで、キリリとした余韻に包まれます。

 「目指したのは、日本でも原宿や屋台などで親しまれてきた、テイクアウトして手持ちで食べるストリートフードとしてのクレープを、レストランのデザートに近い感覚で最高においしく、ハイエンドなクレープとして提供することです」と話すのは、マネージャーの林耕太郎さん。

 メニュー作りはすべて、フレンチレストランやビストロで約20年腕を磨いてきた小高未来さんが手掛けているといい、レストラン仕込みの洗練された味わいや技術がクレープに表現されているそうです。

「ハードリカーとクレープを合わせることにしたのは、甘いものとハードリカーは相性がいいから。甘ったるさやクリームの脂っぽさをハードリカーがすっきりと切ってくれます。それとともに、女性だけでなく男性のお客様にもいらしていただけるよう、クレープとショットでさっと食べていくという、かっこいいスタイルを提案したいという思いも。実際、お一人でいらっしゃる男性のお客様も多いです」(林さん)

贅沢な香りが立ちのぼるクレープ

 ハードリカーはクレープとともにショットグラスで提供するだけでなく、香りづけとしてクレープ生地に直接吹きかけたり、具材のフルーツをマリネしたりすることも。

 「Berry Rose(バラと木いちご)」は、バニラ風味のクレーム・ブリュレと生クリーム、ディタ(ライチリキュール)でマリネしたライチ、ミックスベリー、ローズウォーターで香りを付けたベリーソース、サクサクとしたフィヤンティーヌ(薄焼きクレープ)入りのホワイトチョコレートクランチを組み合わせたひと品です。バラとライチが華やか香りを漂わせ、ベリーのキュンとした甘酸っぱさがクレーム・ブリュレのまろやかさとコントラストを成しつつ調和して、果実味豊かでエレガント。その深みにうっとりしてしまいます。

 「意識しているのは、味、香り、食感のトータルでのバランスです」と、林さん。「骨格となる生クリームは乳脂肪分47%のものを使用していて、しっかり泡立てて口溶けよく仕上げ、重くなりすぎないよう量を抑え気味に絞ります。食べ進める順に流れがあって、最後までおいしく食べていただけるよう具材の配置にもこだわり、チョコレートのクランチやメレンゲ、クランブルなど食感のアクセントを何かしらひとつ入れるのもポイント。巻いたときの美しさにもこだわっています」と、話します。

2023.05.27(土)
文=瀬戸理恵子
撮影=釜谷洋史