『育児は仕事の役に立つ』(2017年)、『男性の育休』(2020年)といった本においても、同様の主張は顕著である。「プロジェクトとしての育児に夫婦で取り組むことで、リーダーシップ能力の向上が期待できる」、「育児の効率化が、仕事の最適化につながる」、「エクセルを使って家事や育児を『見える化』するとよい」、「育休をとる男性が増え、働き方が変われば、時間当たりの生産性も向上する」等々。これらの本は、「育児書」であるのと同時に、「ビジネス書」でもあるのだ。
上記のような主張が誤りであると言うつもりはない。男性が育休を取得することが日本社会においていまだに困難なのは、育児が企業の利潤追求を阻害する要因として位置づけられているためである。「ワーク」と「ファミリー」の二項対立を問い直すという意図自体は、よく理解できる。
「イクメン」本のモヤモヤ
けれども、「育児は仕事の役に立つ」と言い切ってしまって本当によいのだろうか? 「育児が仕事の役に立つ」のであれば、どうして子育て中の女性の多くが今までの仕事を中断せねばならないのだろうか? 育児の経験を仕事に活かすことができる労働者は、いったいどれだけいるのだろうか? パートや非正規の労働者にとって、これらの本で推奨されている「働き方」とはどこまで現実味があるものなのだろうか?
単刀直入に言ってしまおう。これらの本が想定している「男性」とは、ある意味では特権的な人々である。『育児は仕事の役に立つ』において調査対象として選ばれているのは、「未就学の第1子を持っている共働きの正社員の男女」であり、筆者たち はそれが「高収入の恵まれた世帯」であることを認めている。
架空の父親の物語を軸に話が展開する『イクメンで行こう!』でも、焦点が当てられるのはエリート男性だ。「平均」と名付けられた主人公は、その名前とは裏腹に、「某社のコンサルティング部門に勤め、ワーク・ライフ・バランスやダイバーシティを企業などに推進する業務に従事して」いる。あるいはここで、第一章で紹介した『FQ JAPAN』が「0~2歳児を子育て中の中高収入の30代男性」を主な読者層としていることをあわせて指摘してもよい。
2023.05.24(水)
文=関口洋平