想いを伝えることが楽しくなった

――連載によって「エッセイ」にも昇華する術を身に付けられました。ご自身にはどのような変化が起こりましたか?

 肩の力が抜けた状態でクリエイションができるようになりましたね。曲の質感はそれまでと同じでパワフルなメロディーラインもたくさんありますよ。というよりも、私の苦手意識が取り払われたのが大きい。それまではコミュニケーションを取った方がいろんな面で豊かになれると理解できてはいても、頭の中の構想や心の内に秘めた感情をどう表現していいのかが分からなかったんです。それらを文字にして外に出す行為を繰り返すことで些細な事柄も伝えられるようになりました。音楽は1人で生んで奏でるものではないですからね。

――執筆がコミュニケーション能力を高めてくれたんですね。エッセイは完結しても書く行為は続けられていますか?

 はい。実は、エッセイと同時期に日記を3ページつけ始めるようにしました。毎日続けるうちに書くことってどんどんなくなるんです。

 それでもあきらめずに「今日はお腹が減っていない」とかを書いてページを埋める努力をしていたら、ようやく最後に本音が浮き彫りになります。裏を返せば、人はそこまでしないと自分の思いを吐き出せないんですよ。この手法は連載にも応用していました。まずはノートに思いの丈をとにかくしたためる。パソコンに向かうのは字数内におさめるのみです。長文に慣れたからこそ巻末に収録した妊娠〜出産までのルポ「母になること、私であること」を書けましたし。でも、スタッフや担当編集さんにはしばらく、出産について書くことを内緒にしていました。自分のできごとを赤裸々にすることにも迷いがあったのと、なにより、無事に産まれてくる保証もなかったですからね。

――「母になること、私であること」は、働く30代女性の励みになりました。発表してくださり、ありがとうございます。

 よかった! 

2冊目も『ドキュメンタリー』を執筆したい

――次の構想はありますか?

 やっぱりこの続編ですかね。歌詞を書く行為は一枚の写真を撮る感覚で、エッセイは映像だと思うんです。内面をさらけ出しているので、全然かっこよくないし、細かい所作もばれちゃう。そういう私でよければ、また、見ていただけたら嬉しいです。“ドキン”とくる対象は時代で変わりますしね。

――小説も読んでみたいです!

 えっ!? それこそまた予想外の出来事なのですが、もしかすると作詞と近い面があるかもしれないですね。私は自身が主役というより頭の中で描いた2人の役者を俯瞰で見て描くパターンが多く、周りの情景も浮かびます。物語となると相当な妄想力が問われるわけですが、一筋縄ではいかないラブストーリーは編み出してみたいかも。

Superfly 越智志帆(おち・しほ)

1984年2月25日生まれ、愛媛県出身。2007年にシングル『ハロー・ハロー』でデビュー。翌年、1stアルバム『Superfly』をリリースし、オリコンアルバムランキング1位を記録。以降、オリジナルアルバム及びベストアルバム6作品でオリコンアルバムランキング1位を獲得。「愛をこめて花束を」(2008)「タマシイレボリューション」(2010)「輝く月のように」(2012)「Beautiful」(2015)「覚醒」(2019)「フレア」(2019)「Farewell」(2022)などドラマや映画の主題歌となったヒット曲多数。5月24日に7枚目のアルバム『Heat Wave』をリリース予定。

Superfly 越智志帆 初エッセイ『ドキュメンタリー』

定価 1,760円(税込)
新潮社
» この書籍を購入する(Amazonへリンク)

2023.05.02(火)
文=松岡真子
撮影=平松市聖