シンガーソングライターとしてのオリジナリティ溢れる音楽性、圧倒的なボーカルとライブパフォーマンスで魅了するSuprefly 越智志帆さん。「人生の中で、完全に予想していなかった出来事」と語る初のエッセイ集『ドキュメンタリー』を刊行。普段考えていることでみっちり埋め尽くされた一冊を書き上げるまでの道のりを伺いました。


未知の世界の先で繰り広げられる“ワクワク”を信じて

――デビューする前に予想されていたのはライブや歌番組での楽曲披露、レコーディングを行う、インタビューを受けるということであったそうですね。その見通しを遥かに超えるエッセイを執筆されました。きっかけを教えていただけますか。

 まさかこんな未来が待ち受けているなんて、私も驚いています。なんの前触れもなく、Webマガジン『考える人』での連載のお話をいただきました。

――そんなに突然だったのですね。依頼を受けた感想は?

 えっ!? 毎月、3,000字も書くの!? っていうのが率直なところ(笑)。作詞というアプローチで言葉と向き合っているとはいえ、原稿用紙7枚半分も文章を書いたことはなかったので。

――思いの丈を綴るのは時間も要しますし、構成力も問われますよね。

 まさに。テーマに対して深掘りをしなくてはいけない字数です。ただ、あまりに潜り過ぎると戻ってこれない。最初の頃はペース配分に戸惑いました。回を重ねるにつれて、心の中をさらけ出すにはちょうどいい量だと気がつきました。

友達に話すようなとりとめのない内容こそ取り上げる

――硬く丈夫な髪の毛との戦いを記した「毛髪一本勝負」や大学時代に開眼したヴィンテージ服への想いをしたためた「ユーズド偏愛」など、ささやかなエピソードが散りばめられていて、越智さんとの会話を楽しんでいるような気分になりました。

 わー、うれしいです。気の置けない友達とお酒を飲んでいるときってオチのない話を繰り広げますよね? そんな感覚で書いていました。私は旅友とよその土地で過ごす間、大体、3つくらいの話題しか喋っていません。ただ一字一句同じではなく「あのことだけど、新しい見解があってね」といったような感じで、別の視点を交えたやりとりを楽しんでいます。

――日常の中に潜むさりげない話題を展開する方が夢や理想を語るよりも難しい気がします。どのようにテーマを見つけていたんですか?

 人や風景などとにかく観察します。そうするとなにかしら胸に“ズキン”とくるものがあるので。ワクワクもソワソワも含めて心が動く事象を突き詰めるようにしていますね。そうすると書きたいテーマややりたいことにつながる。

 直近の体験でいうと、アルバム『Heat Wave』のジャケット撮影がそれでした。「焚き火と私」というテーマにして、炎って情熱と癒しがあるから最高〜。なんて、呑気にかまえていたんです。でも、荒々しく燃え上がる瞬間を待って近づかなきゃいけないのが、すごく怖くて。美しさの中に恐怖を感じました。自然の産物というよりも生き物に見えたんです。同時に心を撃ち抜かれもしました。この不思議な感覚を話すうちにインスピレーションが湧いて “焚き火の感想”を表現したいというインスピレーションが湧いて、とてもパワフルな楽曲 「Heat Wave」 が生まれたんですよ。

――焚き火からは曲の神様が降ってきたんですね。胸が“ズキン”とした内容はメモされますか?

 本当は記録した方がいいんですけどねぇ(笑)……。記録してなくても、苦しいくらいに残るんです。焚き火の場合は2週間くらいでアウトプットできましたけれど、答えが出ぬまま数年間、考えているエピソードもありますよ。最近になって気づいたのは、この“ドキン”はカラダを健康な状態にしていると起こりやすいんです。ウキウキやザワつきを問わずに取り込むのですが、ひとまず、センサーが反応したら潜るようにしています。

2023.05.02(火)
文=松岡真子
撮影=平松市聖