しかし、「立地的にも店はバタバタしていて、落ち着いて味わってもらえるような雰囲気ではなかった」とめぐみさんはいう。「お客さんにもっと上質な食材を、ゆっくり味わってもらえるような店をやりたい」と次第に考えるようになっていったという。

吟味を重ねた、こだわりの食材

 そこで店をやりながらめぐみさんは行動を起こした。もし新店をやるのなら上質な品々をそろえたいと考え、食材の吟味などを少しずつ進めていった。

 そば粉は多くの有名老舗そば店に納めている「宮本製粉株式会社」に掛け合い、北海道産、福井産など全国各地の優良な石臼挽きのものを仕入れられないかと相談した。十割そばを提供することを決めていた。

 つゆに使用する出汁は「丸勝かつおぶし株式会社」に相談し、高級店に納めている本枯れ鰹節などを手配した。

 うつわは石川県金沢市にある「古美術金沢・ひがし茶屋街大國洞」に出向き、高価な年代物の九谷焼を一式揃えた。カウンターに並んだ九谷焼のうつわはなかなか美しい。

 七味は大阪府堺市の老舗香辛料店「株式会社やまつ辻田」に相談し取りそろえた。そして自由が丘に満を持してオープンしたというわけである。

ピリッと辛い「赤天」でビールを一杯、続いて「鴨せいろ」も登場

 さっそく「赤天」と「ハートランド」が登場した。「赤天」は島根県浜田市にある山本蒲鉾店から直送で取り寄せている人気商品の「元祖あかてん」だという。さかなのすり身に唐辛子を練り込んで揚げた天ぷら(さつまあげ)。表面に細かいコロモが付いていて、すり身の味がピリッと辛い。そば前にはちょうどいい一品である。

 続いて「鴨せいろ」が登場した。九谷焼のそば猪口に温かい鴨肉のつけ汁が入る。一緒に七味と山椒が添えられている。そばは長方形のせいろに3つほど小分けして盛られている。

 

そばに七味と山椒を振りかけていただく

 まず、鴨汁をひとくち。濃厚な鴨の油味がふわっと口に広がる。そして優しい甘さも追いかけてくる。その中に薬味のねぎを少し入れ、そばを箸で少しつけて食べてみる。そばは中太で十分なコシがあるが、いわゆるぼそっとした十割そばではなく、しなやかでつるやかな麺線だ。こちらのそばは押出式で製麺しており、十割でもこのコシが出せるという。

2023.04.26(水)
文=坂崎仁紀