そして、そばの小分けに七味と山椒をそれぞれ振りかけ、そばをいただく。「株式会社やまつ辻田」の七味は京都の「祇園原了郭」の「黒七味」よりドライで山椒と唐辛子の香りが立つ。なかなか素敵な味を演出できる薬味である。
「せいろ」を追加注文、「とろろ」も絶妙な味
どうしてももりつゆを味わいたくなり、「せいろ」(780円)を追加注文した。そして、5分ほどで登場。お目当てのもりつゆをひとくち。このつゆは赤味のきれいなムラサキで口当たりがふくよかでかつしっかりとした奥深い味である。自家製の本返しに備長炭で炙った2年物の薩摩本枯本節だけを使った出汁を合わせている。つるやかな十割そばとの相性は抜群だ。
そして先ほどは気が付かなかったが薬味の本わさびは注文ごとにすりおろしている。ねぎは専門の葱屋さんから千住葱を仕入れているという。冷たいそばの「おろし」に使う辛味大根は江戸辛味大根を使用しているという。
そして後日、再訪し冷たいそばの「とろろ」(1300円)を食べたのだが、これが傑作だった。通常冷たい「とろろそば」といえば、せいろにのったそばとつけ汁にとろろ芋が入って登場するのだが、こちらの「とろろ」はぶっかけスタイル。登場したその姿にハッとする。
食べ終わった後、九谷焼の美しさに見入ってしまう
鮮やかな九谷焼きの平皿に、もりつゆをぶっかけた十割そば、中心に大和芋と長芋を合わせたとろろ、そしてもみじおろし、青ネギ、きざみ海苔、うずらの玉子が添えられている。まず、とろろ芋をそばと和えながら食べてみる。丁度いい粘度のとろろともりつゆが相俟って、絶妙な味である。そしてもみじおろしがほんのり辛い。
もりつゆをかけまわして食べる「出雲そば」をヒントにめぐみさんが考案したぶっかけスタイルだ。そして、食べ終わった後のこの九谷焼の美しさに見入ってしまった。
蒲田の大衆そば屋から始まり、上質な味を目指して自由が丘でスタートした「石臼挽き蕎麦とよじ」。私が訪問した時も、すでに地元のご婦人がひとりで「とろろ」を嬉しそうに堪能していたのが印象的だった。自由が丘には「とよじ」がよく似合うと言われるのはそう遠くないかもしれない。再訪必至である。
INFORMATION
石臼挽き蕎麦とよじ
住所:東京都目黒区自由が丘1-12-6
営業時間:水~日11:30~18:00(LO17:45)
定休日:月・火
2023.04.26(水)
文=坂崎仁紀