お洒落な椅子に座り、メニューを眺めてみる。「かけそば」「もりそば」(400円)、「得そば」(450円)、「かき揚そば」(500円)。そして手打ちのそばにするにはプラス100円という潔さである。店主の準備ができたようで注文を取りに来た。「得そば・手打ち」をお願いすることにした。「トマトは大丈夫ですか? 温かいかけですか、つゆ・そばが冷たいぶっかけですか?」とたたみかけて質問されるので「はいトマトは好きです。ぶっかけでお願いします」と答えると、すぐ調理にとりかかった。

いざ「得そば」を実食!

 5分ほどで呼ばれるので、カウンターに「得そば」を取りに行く。水を入れ、箸を取り、七味などをそこでかけてテーブルまでセルフで運んで実食だ。その「得そば」の姿に心が弾む。適温でカラッと揚げた「舞茸天」「ちくわ天」。そして食べて分かった「トマト天」がわかめとともに並び、生玉子がのる。これで手打ちで550円はお得すぎる値段設定だ。薬味はわさびとさらしたねぎ。

 まず、つゆをひとくち。出汁が十分に利いた返しがちょうどよい口当たりで驚いた。赤味の綺麗なむらさき色。

 そしてそばはやや田舎風に手切りしたタイプでしなやかかつほどよいコシがある。これで十割そばというから感心する。そば粉は福島県二本松市にある有限会社木羽屋(こばや)製粉(代表取締役廣田誠さん)の福島県産石臼挽きそば粉を仕入れている。このそばは高級感があると思う。手打ちそばということはどこかで修行したのだろうことは想像つくが、自分の舌では修行先がどこなのか全く分からなかった(後日驚きの事実が判明する)。

 

 天ぷらは舞茸の香りがまず広がる。そしてちくわ天も柔らかくよい出来である。トマト天は食べるとじわっとトマトのつゆがあふれる。とにかくおいしく完成された一杯である。

手打ちの「立ち食いそば」を始めたワケ

 しかし、どうして低価格で手打ちそばを出しながら、「立ち食いそば」というショルダーネームをつけた「しおや」をオープンしようと思ったのだろうか。店主に質問してみると、なかなか納得できる素敵な理由を話し出した。

2023.03.27(月)
文=坂崎仁紀