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催眠術にかかったようにだんだん取り込まれていくイメージ

——殺人犯の斯波と検事の大友の対峙する場面は、本作の肝ですよね。どちらの意見もわかる気がして、観ていて気持ちが揺らぎました。おふたりにとっては初共演ですが、いかがでしたか?

松山 監督と僕は、この映画の企画を長年話していたので、途中から参加した長澤さんは入りづらいところもあったんじゃないかと思うんです。でも、あの空気感にぱっと入れるすごさがあって、さすがだなと思いました。僕らは年季が入りすぎて(笑)、何周も考えて少々迷子になっているところがありました。長澤さんが大友として出してくる表現は僕らの想像を超えていて、煮詰まりかけていた作品が動き出すきっかけを作ってくれましたね。

長澤 そう言っていただいて、ありがたいです。前田監督はすごくきめ細やかな現場づくりをしてくださる方で、撮影に入る前にみんなで本読みをして、疑問点を解消していく場を設けてくださったんです。おかげで撮影では遠慮せずに集中してのぞむことができました。

 斯波と対峙する場面は、斯波の催眠術にかかったかのような、だんだん取り込まれていくイメージもありました。何が正しいのか、倫理観が揺らいでいってしまうところは演じていてなかなか難しかったですね。

——もし、斯波のように追い込まれたら、自分だったらどうなってしまうのだろうと考えさせられます。

松山 40人以上殺人を犯すかどうかは別にして、孤立して選択肢を見出せずに追い込まれていくのは、誰にでもありうることなんじゃないかと思います。

長澤 そうですね。人間であるために努力をしていても、人間ではなくなってしまうような行動をとる可能性はあるんだろうなとは思います。

——息を呑むような場面がいくつもありましたが、斯波と父親(柄本明)とのシーンは壮絶でした。

長澤 台本でしか知らなかった場面なので、衝撃でしたね。おふたりとも本当に熱演されているから、あそこでぐっとリアルに感じられて辛かったです。見応えがあって、引き込まれました。

松山 柄本さんは僕が10代のころからお世話になっている俳優さんで、共演の回数も多いんです。だから、どれだけ親子に見えるかというのが勝負だったんですよね。

長澤 なんとなく似ていた気がします。

2023.03.24(金)
文=黒瀬朋子
撮影=釜谷洋史

松山ケンイチさん
ヘアメイク=勇見 勝彦(KATSUHIKO YUHMI、THYMON Inc.)
スタイリスト=五十嵐 堂寿 (Takahisa Igarashi)

長澤まさみさん
ヘアメイク=根本 亜沙美(Asami Nemoto)
スタイリスト=MIYUKI UESUGI (SENSE OF HUMOUR)