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セーフティネットで抜け落ちてしまう状況

松山 回想シーンだけ、(柄本明さんの息子である)佑くんと交代するというのもあるのかな? と考えたりしていました。「あれ? 過去の斯波はちょっと顔が違うな」って(笑)。そういうのをやってみたかったんだけど。

長澤 あはは。それ新しい! ふたりで一役面白いですね!

松山 そうしたら、佑くんと柄本さんで、勝手にとんでもないシーンを作ってくれそうじゃない?

長澤 作ってくれそう! 

——それも観てみたかったですね(笑)。介護の問題は、直面してはじめて狼狽えることも多いです。映画のなかに出てくるさまざまな家族のケースも、けっして他人事ではないなと感じます。

松山 映画のなかで、生活保護の申請をしたら、役所に「これだと受けられません」とはねられてしまう場面が出てきます。あれも、ここでは受けられないけれども、ほかではこういう支援がありますとか、何かしら情報を提示してくれたら、希望を持てたと思うんです。

 僕らもどれだけ備えることができるかということが重要になってくると思います。家族の介護でどうにもならなくなったら、貧困に陥ったら……なんて勉強は学校では教えてくれないじゃないですか。そういう事態になってから調べ始めるのでは遅いんですよね。

長澤 この映画が、将来どう過ごしていきたいかなど、人と話すきっかけになるといいなと思いますね。言葉にして自分の考えをまとめるのは、重要な第一歩になる気がします。

松山 人間の持つ生き物としての本質と倫理、理想と現実などの対比がこの映画では描かれています。時代は進み、寿命も延びて、働き方も生活形態も変わってきているので、時間をかけて作った法律ではフォローしきれない穴があると思うんです。セーフティネットで抜け落ちてしまう状況が起きています。そのことを知らずにすむ人もいるかもしれないけれど、どこかで向き合わなければいけない問題なので、自分ごとのように観てもらえたらいいなと思いますね。

『ロストケア』

監督:前田哲
原作:葉間中顕 『ロスト・ケア』(光文社文庫刊)
脚本:龍居由佳里、前田哲
出演:松山ケンイチ、長澤まさみ、鈴鹿央士、坂井真紀、戸田菜穂、峯村リエ、加藤菜津、やす(ずん)、岩谷健司、井上肇、綾戸智恵、梶原善、藤田弓子、柄本明
配給:東京テアトル、日活
©2023「ロストケア」製作委員会
全国公開中
https://lost-care.com/

松山ケンイチ(まつやま・けんいち)

1985年生まれ、青森県出身。2001年、ホリプロ×Boon×PARCOの共同企画オーディション「New Style Audition」でグランプリを獲得。翌年、俳優デビュー。12年にNHK大河ドラマ「平清盛」で主演。16年に映画『聖の青春』で第40回日本アカデミー賞優秀男優賞、第59回ブルーリボン賞主演男優賞を受賞。最近の主な出演映画に『BLUE /ブルー』(21年)、『ノイズ』、『大河への道』、『川っぺりムコリッタ』(すべて22年)、ドラマに大河ドラマ『どうする家康』(NHK 23年)、『100万回言えばよかった』(TBS 23年)など。映画『大名倒産』が6月23日に公開。

長澤まさみ(ながさわ・まさみ)

1987年生まれ、静岡県出身。2000年第5回「東宝シンデレラ」オーディショングランプリを受賞。同年、俳優デビュー。20年公開の『MOTHER マザー』で、第44回日本アカデミー賞女優賞を受賞。最近の主な出演映画に『すばらしき世界』、『マスカレード・ナイト』(ともに21年)、『コンフィデンスマンJP 英雄編』、『シン・ウルトラマン』、『百花』(すべて22年)、ドラマ『エルピスー希望、あるいは災いー』(22年 カンテレ・フジテレビ系)

次の話を読む「田舎に共存のヒントがあるのかな」松山ケンイチが長澤まさみと語る “孤立の解消”と俳優業への“危機感”

2023.03.24(金)
文=黒瀬朋子
撮影=釜谷洋史

松山ケンイチさん
ヘアメイク=勇見 勝彦(KATSUHIKO YUHMI、THYMON Inc.)
スタイリスト=五十嵐 堂寿 (Takahisa Igarashi)

長澤まさみさん
ヘアメイク=根本 亜沙美(Asami Nemoto)
スタイリスト=MIYUKI UESUGI (SENSE OF HUMOUR)