漫画家には、“徹夜”のイメージがつきまとう。「〆切前は3徹」や「原稿が完成するまでカンヅメ」といった激務エピソードには事欠かない業界だ。

 しかしピエール手塚(40)は、『ゴクシンカ』と『ひとでなしのエチカ』の2本を連載しながら、サラリーマンとしても働いている。しかも会社では管理職(課長)。兼業漫画家である彼に、驚異のスケジュールをこなす秘訣を聞いた。(全2回の1回目/後編を読む)

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職場の誰も、漫画については知らない

――昨年、手塚さんは『ゴクシンカ』で連載デビューしました。現在40歳とのことですが、ずっと会社員ですか?

ピエール手塚 そうですね。オリジナルの漫画同人誌を出していたら、漫画賞への応募を勧められて、37歳のときに『ねえママ あなたの言うとおり』で「第80回ちばてつや賞」のヤング部門で佳作をいただきました。そこから商業デビューに繋がっていったわけですが、これら全部、会社員をしながら起きた出来事です。このあいだに昇進して役職もつきました(笑)。

――勤め先には、漫画家として活動していることを伝えているのでしょうか?

ピエール手塚 就業規則を熟読した結果、問題なさそうだったので、会社の誰にも伝えていません。自分はIT系の企業で働いているんですが、エンジニアが副業で技術書を出したりしているんですよね。「まぁ同じようなことだろう」と判断して勝手にやっています(笑)。

――ということは、〆切前などに職場に融通をきかせてもらうことはなく……?

ピエール手塚 はい。コロナ禍でリモート出社が8割でしたが、管理職になったので、去年の春からはほぼ出社しています。だから自力で計画的に漫画を描かないといけません。

――どのようなスケジュールで作業を進めているのでしょうか?

ピエール手塚 大体ネームに10日、作画に20日ですね。連載が1話につき24ページとすると、コマ数にして100コマちょっと。1日5、6コマ描けば、〆切に間に合います。

2023.03.09(木)
文=原田イチボ@HEW