2021年8月に「ヤングエースUP」にて連載を開始し、瞬く間に人気に火がついたマンガ『光が死んだ夏』。2022年8月には「次にくるマンガ大賞2022」Webマンガ部門第11位とGlobal特別賞【繁体字】を受賞するなど、その勢いはますます強まっています。
舞台はある集落。よしきはある日、親友の光(ひかる)の中身が別のナニカに成り代わっていることに気づいてしまう。奇妙な日常が幕を開ける――。
背筋が寒くなるような恐怖演出と、純粋で切ない「それでも一緒にいたい」という渇望を卓越したビジュアルセンスで描いた『光が死んだ夏』。CREA 2022年秋号「夜ふかしマンガ大賞」でもマンガ識者から支持を集めた本作の原作者・モクモクれんは、本作で商業連載デビューを果たした逸材です。
大注目されているモクモクれんさんに、幼少期より怪異に惹かれ続けているというルーツから、影響を受けた作品群、印象的なシーンの制作秘話に至るまで、濃密に語っていただきました。
幼少期の頃から、オリジナルキャラクターを描いていた
――モクモクれん先生が『光の死んだ夏』を構想されたのは、高校時代と伺いました。
小さいときからストーリーを考えるのがすごく好きで、ずっとやっていたことではありました。特に形にすることはなかったのですが、頭の中で組み立てるんです。
いわゆる「成り代わり系」、人外がもういる人に代わる話って、大体人外が敵になっちゃうと思うんです。でも、誰かに成り代わっちゃった人外のほうの気持ちってどうなるんだろう? と考えたのが最初の発端ではありました。
それはいまも大事にしていて、成り代わられてしまった人を取り巻く人の気持ちも書きつつ、成り代わった人外の気持ちに重きを置いて描いています。
――いまお話しいただいたとおり、「光ではない“ナニカ”」の人格が確立しているのが本作の大きな特長かと思いますが、1話ごとの内容を考えていく際、心情の部分から作っていくのか、シーンや表情が浮かぶのか、どういった形で思いつくことが多いのでしょう。
「動かしていったらこうなるだろうな」という展開から考えていきます。第1話の段階でスタートは切っているので、「これからこういう問題が起こるだろうな」「こういう問題が起きたらこういう反応をするだろうな」といったように、キャラクターがどう動くかを中心に作っています。
――幼少期から創作をされていたとお話にありましたが、「描く」方についてはいかがですか? 『光が死んだ夏』を拝読して、画力もすさまじいなと。
ありがとうございます。物心ついた時からずっと絵を描いていました。マンガを描き始めたのは最近なのですが、幼稚園児くらいの頃からイラストを描くのが好きで、オリジナルキャラクターを自分で作って描いていました。その延長線上でずっと続いてきた感覚です。
――物語を作り、絵を描いてきた。それが結実したのが『光が死んだ夏』だったのですね。
そうですね。ただ「漫画家になる」なんて考えていなくて、趣味の一環でやっていたことだったので声をかけていただけて、ありがたいことにすごく売れて嬉しいです。嬉しいというか、いまだにびっくりしていて「漫画家」って名乗っていいのか?というくらいの気持ちです。
――いえいえ、先ほどの幼稚園時代の話を伺っても思ったのですが、大体「絵を描く」は既存のキャラの模倣から入ると思うんです。いきなりオリジナルキャラを作れるのは、漫画家になる片鱗を感じるなと。
私の周りにもそういう人が結構いたので、普通のことだと思っていました。書くのも描くのも、根本にあるのは「妄想するのが好き」だと思います。そういったものがいまにつながっている気がします。
あと、絵でいうと毎日鬼のようにデッサンをしていた時期がありました。それはめちゃくちゃ役に立っています。
――影響を受けたクリエイターや作品についても伺いたいのですが、学生時代に『東京喰種トーキョーグール』にハマっていたそうですね。
はい。もともとジャンプ系統や少年・青年漫画を読むのがすごく好きで、小学生くらいのときに『東京喰種トーキョーグール』にハマりました。よく絵柄が色々なものに似ているといわれるのですが、個人的にはベースにあるのは『東京喰種トーキョーグール』だと思っています。自分でもよく『東京喰種トーキョーグール』のキャラを描いていました。
――小学生で『東京喰種トーキョーグール』は、なかなかに早熟ですね。
そうですよね。親に隠れて読んでいました(笑)。もともと人外が好きなのですが、『東京喰種トーキョーグール』は人外の描き方が素晴らしいんです。
あとは、『ジョジョの奇妙な冒険』ですね。『岸部露伴は動かない』などは顕著だと思いますが、怪奇的なところがあるじゃないですか。怖くて、ホラーで怪奇的な場所だったり雰囲気の作り方がすごく好きです。
――『東京喰種トーキョーグール』だと、キャラクターの表情の変化も特徴的ですよね。恐れやおののきといったような感情を表情に投射する上手さは、『光が死んだ夏』を読んでいても感じます。ここも影響を受けている点でしょうか。
それはあるかもしれません。当時、毎週ヤングジャンプ本誌で楽しみに読んでいたのですがハッとする表情がすごく多いなと思っていて。あと、変わった表現でドキッとさせる。「ページをめくった瞬間に状況がガラリと変わる」といったような演出は、すごいな面白いなと思いながら読んでいました。
2022.11.07(月)
文=SYO