「ホラー映画のかっこいい構図に影響を受けています」

――「怪奇」でいうと、先生は「説明できない恐怖に惹かれる」と語っていらっしゃいましたね。

 もちろん、民族ホラーだったり説明できる恐怖、解明していくホラーもめちゃめちゃ好きなのですが、パッと見て怖いと思うのはやっぱり説明できない恐怖です。『光が死んだ夏』は両方を入れられるように工夫しています。

――『ほん怖』(ほんとにあった怖い話)や、『来る』『新耳袋』がお好きと伺いました。和製ホラーが特にお好きなのでしょうか。

 いえ、海外のホラーもどっちも観ます。『ミッドサマー』や『ぼくのエリ 200歳の少女』も好きですし、『私はゴースト』は雰囲気と筋運び、言いようもない恐怖感が好きでした。日本だといま挙げていただいたものもそうですし、『リング』や白石晃士監督の作品はほとんど観ています。『来る』は原作の『ぼぎわんが、来る』も読みました。

 『光が死んだ夏』の演出は、ホラー映画の影響を受けている部分が多いです。

――先生がホラー映画を観るときにどういうところに注目しているのか、気になります。

 たとえばアリ・アスター監督の作品は『ヘレディタリー/継承』も『ミッドサマー』も大好きですが、『ミッドサマー』の部屋のトイレに入ろうとドアを開ける→飛行機のトイレにつながる、そしてそれを上から見た構図はすごく工夫されていて印象に残っています。

 あと、ポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』や『殺人の追憶』を観たのですが、構図が滅茶苦茶いい。大事なところで泣き顔を見せるんじゃなくてあえて引きにする演出とか、「カッコいい!」というような気持ちで観ています。

――『光が死んだ夏』だと、日常の隙間にある怖さもじっとりと描かれていますよね。

 他の作品から影響を受けているとしたら映像系が多いかと思いますが、そのほかに2chのオカルト板「死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?」発祥の怪談などを結構見ていて。基本的には「怖い」よりも「面白い」のほうが勝って、全然怖いと思わないのですが、何個か洒落にならないくらい怖すぎるものがあって夜眠れなくなったことがあります(笑)。そういったときの怖さを思い出しながら描いているところもあります。

――あとはやはり、細やかな心情描写ですよね。

 キャラクターの心情描写に関しては、日常生活で周りの人を見ているときのことがとても役立っています。モデルはいないのですが、なんとなくこういうところは友だちに似ているなと思うところはありますし、友だちと接しているときに「この人だったらこういうことを言うだろうな」と考えている蓄積が働いている気がします。

 基本的に、登場人物の行動や発言は普通に暮らしているいまの人に共感しやすいように作りたいと思っています。友だちやすごく大事な人が別物に入れ替わっていたら、私だったら多分そのまま放置しちゃう。そういった感じで、「自分だったらこうする」を漫画の中の登場人物もすることが多いです。

――リアリティといいますか。

 そうですね。もちろん、話を進めるためにやってほしい行動はあるので「現実はこうはいかないよね」というような行動をとることもあると思いますが、この作品に関しては少なめにしています。

気づいたら妖怪やホラーが好きだった

――『光が死んだ夏』の演出についても色々とお聞きしたいのですが、セミの「シャワシャワ」やカエルの「ゲコゲコ」という鳴き声が圧迫してくる感じが鮮烈でした。これは、下絵時点でも描き込まれていたんですよね?

 そうですね。これは最初からやろうと思っていたことでした。ホラー映画って音の恐怖が演出に効いていると思うのですが、マンガは音がないので、何とかうまくそれを表現したいと考えていて。わざとフォントを使わせてもらって嫌でも目に入ってきちゃうように工夫しました。

 ただ、試行錯誤したというよりはナチュラルに入れていて、周りから「面白かった」と言われて初めて「あっそうなんだ」というような感覚でした。

――遠くに「く」が見えているシーンなども滅茶苦茶怖かったです。

 元々はインターネット発祥の妖怪「くねくね」の影響もありますが、単純に「遠くから見てこうだと思っていたものが、近づいたら『違う』と気づいた瞬間って怖い」という発想から作っていきました。「どんなひらがなが一番怖いだろう? 『あ』じゃ怖くないよな」と考えたりして(笑)。

――先生が長年、怖いものに惹かれ続けているからこその引き出しとも感じますが、「怖い=面白い」という感覚がずっとあるのでしょうか。

 これがちょっとよくわからなくて、気づいたら妖怪やホラーが好きだったんです。絵本も児童文学も怪談系のものばっかり読んでいましたし、小さなころは『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』にハマって、それしか観ない時期もありました。妖怪やおばけ、ハロウィンの話――気持ち悪いくらいそういうものばっかり読んでいて、ただ「怖い」という感情ではなかった気がします。「来るぞ来るぞ……」とワクワクしながら読む感じで、ジェットコースターに乗るような感覚にも近いかもしれません。

――「モクモクれん」というお名前も、妖怪の目目連からですもんね。

 はい。ペンネームをどうしようか友だちと相談しているときに「妖怪の名前にすれば」と言われて、それいいじゃん! と思ってこうなりました。

――『ゲゲゲの鬼太郎』が大好きなので、ニヤッとしちゃいました(笑)。先生のお好きな妖怪は、どんなタイプでしょうか。

 私はすねこすりが好きです。2005年版の『妖怪大戦争』がすごく好きで。

――すねこすり、かわいいですもんね。

 そうなんです。『鬼太郎』も好きですし、妖怪は全般的に好きですね。

2022.11.07(月)
文=SYO