男性社会の中で生きていく女性
――男性社会の中で生きていかなくてはいけないウメという女性の造形は、どのように立体的になっていったのですか。
千早 夫を3人持つ女性目線で考えているうちに、「あれ、それだと鉱山の中の描写ができない」と気づいたんです。鉱山は男性しか入ることが許されていないので。でも、子どもなら入ってもいいのではないかと思い、ウメの子ども時代から話を始めました。暗い穴に入りたがる子どもって、『不思議の国のアリス』のアリスみたいな、独立心が強くて好奇心が旺盛だろうな、と考えるうちにウメのキャラクターが出来上がっていきました。
――ウメは夜目が利くということで、その能力を活かして女性だけれど間歩で活躍するんじゃないか、とちょっと期待しましたが……。
千早 みなさんそう思いますよね。でもそうはいかないぞっていう。だって、今だってめちゃくちゃ才能があるのに会社を追われる女性っていっぱいいるじゃないですか。
――ウメは鉱山の男性社会に抗い、やがて受け入れる。でも、諦めたわけではなく自分のやり方で抗っていく。ということを昨日の記者会見でも話されていました。
千早 今までの私だったら、抗って怒ってぶち壊して終わり、みたいな話になるんですけれどそうはならなくて、この作品でちょっと大人になれたと思いました。ウメだって男性全員が憎いわけじゃなくて大事に思っている相手もいますし。悔しくても抗うだけじゃないだろう、という気持ちになれました。
主人公が出会う、個性豊かな男性たち
――ウメが出会う男性たち、みな個性豊かですよね。子どもの頃に家族と別れたウメを助けてくれ、一緒に暮らす喜兵衛は銀の気が視えると謳われた山師で……。
千早 今回はエンタメを意識したのでキャラクターを立てました。喜兵衛はウメよりずっと年上で、ウメと同年代の隼人は喜兵衛に対抗心があって、後に出会う年下の龍は仏さんみたいに達観していてというように。
2023.02.08(水)
文=瀧井 朝世