――それにしても歴史的な背景を含め、当時の様子が細やかに描かれますよね。ものすごく丁寧に取材をされたのだなと思いました。

千早 2019年の6月くらいに取材として石見銀山に行き、またいつでも行けると思っていたらコロナが広まってしまって。現地に行くことができないので連載中は必死に調べながら書いていました。主人公のウメが温泉津に行くあたりは想像で書き、去年の5月に久々にまた取材に行って実際に歩いて確かめました。

 

「闇」の描写が生まれるまで

――石見銀山や周辺を歩いて、どのようなことを感じましたか。

千早 石見銀山って幸運な鉱山で、採掘にダイナマイトが使われるようになった頃にはほぼ閉山していたんですよね。だから、破壊されていないので自然がわりと残っているんです。昔の手掘りの穴が緑に覆われて残っているのがラピュタっぽくて(笑)、すごくよかった。中まで入れる穴は限られていましたが、入るとやっぱり真っ黒で、結構怖かったですよ。

――そこから間歩(まぶ:銀を採るために掘った穴)の中の闇の描写が生まれていったんですね。

千早 そうです。今回いただいた感想のなかに、「闇って描写できないのに、よく題材に選びましたね」と書かれたものもありました。でも、映画や漫画だと闇は黒でしか表現できないけれど、小説だったら闇の中でも肌触り、匂い、音……全部書けるんです。

鈍器で殴るくらいの文章を書きたい

――描写力、表現力が圧倒的に素晴らしいと思いました。一文たりとも気を抜いていなくて、ものすごく豊かで美しくて怖くて、こちらの五感を総動員させてくれる文章世界でした。

早 今回は、わりと重めの、鈍器で殴るくらいの文章を書きたいな、と思っていました。文章が濃すぎて抽出するのが大変で大変で、1か月かけて30枚書けないこともありました。ゲラで確認作業をしている編集さんもヘトヘトになっていましたね(笑)。

――いろんな表現を使われているので、闇といっても、いろんな闇を経験した気持ちになりました。どうやって言語化しているのかな、と。

2023.02.08(水)
文=瀧井 朝世