私は死ぬまで書いていたいという気持ちがあるので、仕事をもらえなくなって書けなくなったらどうしようと思ったんですけれど、ありがたいことに、この8年間まったくそんなことはありませんでした。目の前にはいつも向き合うべき作品があったし、むしろやりたいことがどんどんできるようになっています。賞をとらなくても自分がその状況を作ってこれたんだという、精神的に安定した時期での今回の受賞なので嬉しいです。
――初期の頃にインタビューした際、毎回新作を書く際に、なにか課題を作るとおっしゃっていましたね。
千早 今でもずっとそうです。
――実際、さまざまな小説を書かれてきたし、尾崎世界観さんとの共著で小説『犬も食わない』を発表したり、新井見枝香さんとの共著でエッセイ『胃が合うふたり』を出したりと、面白い試みもされてきました。
千早 それも課題のひとつでした。1人で書くのではなく、尾崎さんや新井さんという、文章の面白い、どんな球を投げてくるか読めない人たちと組んで、自分が彼らの球を受けられるかという瞬発力や柔軟性を鍛えてみたくて。2人ともすごい球を投げてくるので。
「3人の夫を持つ」主人公を書きたかった
――そして受賞作『しろがねの葉』は戦国時代末期の石見銀山が舞台で、千早さんにとって初の時代小説です。これもまた大きな課題、挑戦でしたね。
千早 ずっと書きたかったテーマでした。2011年に、たまたま石見銀山に行ったんです。現地のガイドさんが「石見の女性は生涯3人夫を持った」みたいなたとえ話をしていて、それを聞いていつか書きたいと思いました。担当編集さんにはその話はしていたんですが、自分が書くのはまだまだ早いと思っていました。でも編集さんに「書いちゃいなよ。とりあえず取材に行こう」とそそのかされて書き出すことになりました。
――どうして「3人の夫を持つ」と聞いて書いてみたくなったのでしょうか。
千早 そんなに過酷な人生だったら逃げればいいのに、とちょっと思ったんですよね。なぜその場所にしがみついて生きていくんだろう、って。私の作品は疑問から生まれることが多いんです。疑問に向き合いたくなった時にどうしても物語が必要になってくる。自分がその人物の中に入っていって、その人の生を生きることによって答えを見つけたい、という気持ちがあるんです。だから自分から遠い人の話を書くことが多い気がします。
2023.02.08(水)
文=瀧井 朝世