さらに、こう思いの丈を漫才にぶつけた。
「お笑いは今までいいことがなかったやつの復讐劇なんだ!」
「関西芸人のキラキラ感が怖くて、東京に逃げてきた」
西の芸人には、無縁の劣等感かもしれない。後にインタビューした際、井口は心の鬱屈を吐き出した。
「関西の芸人はそれまでもピラミッドの一番上にいた人たち。スター街道を歩んできたからキラキラしている。それに対するムカツキでもあった。アキナの秋山(賢太)さんとか、女子アナと結婚してるんですよ。東京の若手芸人には考えられない。僕らは2人とも岡山出身なんですけど、あのキラキラ感が怖くて、東京に逃げてきたんで」
根は気弱で純情な男だ。
20年の決勝は9位と振るわなかったものの、希望もあった。審査員の松本人志が「刺さる言葉があってすごくいいんですけど、もっと刺してほしかった」と評したのだ。
「やったー、って思いましたね。このスタイルを磨いていけばいいんだ、って。『悪口は嫌や』って言われたら絶望してました」
松本の言葉を支えに今年は、さらに鋭く刺しまくった。全身全霊をかけて。まさに魂の漫才だった。
最終審査では、7人の審査員のうち6人がウエストランドに投票。圧勝だった。
優勝直後の会見で、井口に聞いた。今日、ついに復讐は果たせたのか、と。
「いろんな人から狙われそうで怖いな。まだ、わからないです。今後、ふざけんなみたいになるかもしれないですし。もうちょっと、いいことがあったら復讐できたことになるのかも」
毒舌漫才を武器としながらも「僕、怒られるのがとにかく嫌なんです」と臆病な一面ものぞかせる。
2年前、井口は3万円で舞台用の靴を新調した。その額を「夢のような大金」と表現した。優勝賞金は1000万円だ。ひとまず、もっといい靴が買えるはずだ。
2023.01.13(金)
文=中村 計