現代短歌を代表する歌人であり、一度読んだらクセになるエッセイにもファンが多い、穂村 弘さん。最新刊の『短歌のガチャポン』は、時代も歌歴もさまざまな歌人たちの短歌を穂村さんが選んだアンソロジー。
はっとしたり、おかしかったり、せつなかったり、豊かな味わいの百首がアトランダムに並んでさまざまな輝きを放つ。「短歌」×「ガチャポン」という珍しい組み合わせは、どのように生まれたのだろう。
作者には少女や前科八犯の人も ランダム感が「ガチャポン」っぽい
「短歌や俳句って、アンソロジー向きなんですよね。百人一首ってそもそもアンソロジーなんだけど、万葉集とか、あるいは古今集とか、勅撰集的なものもみんなアンソロジー。定型詩のアンソロジーって、ガチャポンと似てるなって思ったんです。ガチャポンって何でも入ってるわけではなくて、たとえば何かのフィギュアであるとか、共通のフォーマットがありますよね。短歌というフォーマットは同じだけど、時代も作者も内容もバラバラな、ただ何か自分の琴線に触れたもの、こんなのが出てきたらうれしいなっていう作品を1冊に入れて、どこからでもランダムにぱっとページを開いて読めるような本を作りたいなと。ページ構成も右ページに一首、左側にその解説という形式にして。あとはイラストもね、全部にではないけれど、ついていて」
本の冒頭では「Tanka meets Drawing」として、カバー装画も手がけているメリンダ・パイノさんが、二十五首の短歌それぞれに絵を寄せている。ミナ ペルホネンのテキスタイルデザイナーであり、童話や俳句の絵本も手がけている彼女の、一章分の小さな画集のようでもある。
「挿絵にはしたくないなっていうかね。絵本でもそうだけど、テキストが忠実に絵になっていることがいい場合と、つまらない場合があって。この本の場合は、猫の短歌があったら、猫の絵があるっていうのじゃない方がいいのかなって思ったんです。彼女の絵は具象的だったり、抽象的だったり、とても自在な感じなので。選んだ短歌を編集者にメールで送ると、英訳されたものが彼女に送られて、そこでちょうどいい距離感ができるっていうか。彼女の中で短歌を想像して、咀嚼されたものがそれぞれの絵となって出てきていると思うんですよね」
掲載されている百首のテイストは、実にさまざま。
おふとんでママとしていたしりとりに夜が入ってきて眠くなる
松田わこ(2002~)『リコピンがある』
当時七歳の少女が詠んだこんな柔らかい歌もあれば、突然ドキッとさせられるものも。
前科八犯この赤い血が人助けするのだらうか輸血針刺す
金子大二郎「日経歌壇」(2015年4月5日)
「作者のスタンスはいろいろで、七歳の少女がいたり、前科八犯の人とか、初めて短歌を作ったような人もいるし、与謝野晶子や宮沢賢治がいたりとかね。文脈がない方がガチャポン感があるかなと、偶然性を重視しようという気持ちがあって。すごく好きな人の好きな歌ばかりを出すのではない感じにしたい、という。たまたまその時ぱっと開いた本ですごく胸を打たれた歌とか、ちょうどその頃投稿されてきたものとか、急に思い出したものとか。好きな歌ではあるけど元から自分の中にストックされていたっていう感じじゃない方がいいなっていう。よく知られた作者でも、『この人にこんなタイプの作品があったんだ』っていう歌を意識して選びました」
2023.01.07(土)
文=原 陽子
撮影=釜谷洋史