柚木麻子さんが日々の食事や家事に育児、そしてフェミニズムについて綴ってきた4年間の記録「とりあえず湯をわかせ」が1冊に。世の中の理不尽に「NO」といえる大切さ、コロナによって変わってしまった世の中の空気について、今思うことを伺いました。


「とりあえず湯をわかせ」というライフハック

――タイトルの妙でもあるのですが、一番簡単なことから手をつけてドン詰まりの状況を切り崩そうとする「とりあえず湯をわかせ」は素敵なライフハックだと感じました。最近焦燥感にかられて、心を落ち着かせるためにお湯を沸かすに至ったエピソードはありますか?

 昨日もこのインタビューの準備をするためにとりあえずお湯を沸かして飲みました。お湯を飲んでおけばなんとかなる、みたいなところあるじゃないですか。母親からずっと家訓のように「とりあえずお湯を沸かせばなんとかなる」という話をされていたので(元をたどると桐島洋子さんがエッセイに書かれていたことなのですが)、別にトラブルなどなくても日常的にお湯を沸かす習慣が身についているんです。

――お湯を沸かすことで日常的にホッとする瞬間をつくろうとされているのですね。ほかにも最近取り入れているライフハックはありますか?

 今は作家の窪美澄さんにすすめられた漢方ですね。こんなにまずいものが世の中にあるの? と思ってしまうくらい本当にまずいのですが、これによって元気になっている気がします。ライフハック系はいろいろ試してみましたが、漢方は続いてる方かもしれないですね。

――今作は『きょうの料理ビギナーズ』での連載が元になっています。柚木さんの小説は食の描写に富んでいる印象があります。やはり食への興味は昔からあったのでしょうか。

 小さい頃から本を読んでいて、食べたことがないものが出てくると気になって仕方がなかったんです。『若草物語』には「ライムのピクルス(pickled limes)」が出てきますよね。私は矢川澄子訳で読んだので「ライムの塩漬け」という活字を目にしていたのですが、どんな食べ物なんだろうとずっと気になっていました。食べたことがないものを活字で読むとすごく想像が膨らむので、私も小説に取り込むことで読者の方の引っかかりになるといいなというのは意識しているかもしれません。あと、絶対食べたくはないけど読むと面白いという表現は結構好きなので、つい出してしまうのかもしれないです。

2022.10.21(金)
文=綿貫大介
写真=平松市聖