好きな服を着られる場所があるとラクに

――「こうなりたい」ではなく「こうあるべき」で何かを目指すと、無理が生じそうですね。

 15年くらい前に、美魔女ブームがありましたよね。あのときに美魔女と言われていた人たちって、多分ちょうど今の私と同じ43歳くらいだったと思います。

 今はあのブームがなくなってよかったなって本気で安堵してます(笑)。私みたいなコンプレックスある人にはつらい流行だったんじゃないかなと想像するので。

 「美魔女コンテスト」は今も開催されているけど、美を極める人たちの場って感じになっていて、そうやって楽しんでいる人たちのことはすごくいいなと思います。

 ブームの時は「これこそが美である」って打ち出されていたから。そういったものが、今はないですよね。それってすごくありがたいなと思います。

――今は「流行ってるかどうかより、好きなものを着て気持ちよく過ごすほうがいい」という空気のほうが強くなっているように思います。

 私、学校の保護者会には抑えめの服装で行くんですよ。個性的な格好はしていかない。一方で、ときどき友達と一緒に、普段はできない格好をするパーティーみたいなことをしてるんです。沢尻エリカさんが昔かぶってた、直径1.2メートルくらいの帽子があったじゃないですか。あれが大好きで(笑)。今度、そのパーティーでかぶろうと思って買ってあるんです。

 でも私の母は、それこそ保護者会にその帽子をかぶってきちゃうような人なんですね。それが子どもの頃とってもつらかったから、私はちゃんとした格好で行こうと決めているんですけど、一方で母のDNAもあるからそういう帽子をかぶりたい気持ちもある。めいっぱい好きな格好をしていい場所を持っていると、その使い分けが苦痛じゃなくなるんですよね。

――「メイク=嘘を付く」というお話と通じる部分がありそうですね。特に若い頃は普段の自分と違う装いをすると、何か嘘をついているようで抵抗感があった記憶があります。

 そうそう、いつもと違う格好をするのが恥ずかしいんですよね。「イメチェンみたいだな」って。でも海外映画の好きな登場人物はコロコロ服装を変える人だったりして、そういうことに自分が憧れていて可愛いなと思ってることを、40歳すぎてからようやく認められました。

 周りの人が受け入れてくれる環境かどうかも大切ですよね。若いときって、普段と違う格好をしてバイト先に行って「え、何? どうしたの?」ってマイナスなテンションでコメントされる……みたいなことあったけど、年を取ってくるとそういう場面がなくなっていく。褒めてくれる人ばっかりだと何もストレスなく披露できるんだとわかりました。

――年齢を重ねて付き合う人を自分である程度選べる環境になると、そこも楽になってきますよね。

 家庭も、自分が親として主導権を握ってるから、自分のつくりたい空気にしていくことができるんです。本にも書いたんですが、娘に「ママ、太ってるね」と言われたことがあって。

 そういうときにこちらがどう受け取るかで、家庭の空気が変わるんですよね。最初の頃は何も言えなくて放置してたんです。でもやっぱり嫌だったから「それはやめようね」と伝えたら、言わなくなりました。

 私はもともと夫の容姿もすごい褒めるんですよ。絶対に貶しません。それは自分が家庭の中で茶化されてきてすごく嫌だったから、そう決めていただけなんですけど、振り返ってみるとそういう積み重ねがすごく大切だったなと思いました。

 今自分がだんだん楽しくなってきているのは、「こうされたら嫌だから、こうしておこう」と繰り返してきたことが実って還ってきているような感じがします。

2022.12.30(金)
文=斎藤 岬