『噂の男』ケラリーノ・サンドロヴィッチ
高校卒業後、地元石川県金沢市でフリーターをしていた玉田だが、大学に進学した友人があまりに楽しそうだったので進学を決意。慶応義塾大学へ入学することとなる。そこで、テニスサークルの友人に誘われ、演劇サークル「創像工房 in front of.」へと所属する。
「人生で一番観た演劇かもしれないです。何十回と観ていますね。それこそ、ハマっていた時期は朝起きてから、夜寝るまで、いや、寝る時もかけたまま寝たりして。睡眠学習ですね(笑)。セリフも一言一句間違わず言えるようになっていたし、笑いのリズムも舞台のリズムも自然に体に染み込むぐらい」
2006年にパルコ劇場で上演された『噂の男』。堺 雅人、橋本じゅん、八嶋智人、山内圭哉、橋本さとしといった錚々たるメンバーが出演するこの作品はサスペンスコメディと銘打たれている。あるお笑いの劇場の舞台裏で人間関係が交錯し、不吉なことが次々と起きていくケラリーノ・サンドロヴィッチらしい魅力に満ちた作品だ。
「こんなの書いてみたいって思った作品でしたね」
それまでは演劇にそこまで強く関心を抱いていなかった玉田だったが、この作品をきっかけに、演劇へとのめり込むように。足繁く小劇場へと足を運び、岩松 了や別役 実といった劇作家の戯曲を読み漁るようになる。舞台への扉を開いた作品だった。
「エンターテイメントとして最強だと、素直に思いますね。ドラマとしての物語の面白さもあって、人間らしさに満ちている。張り詰めた緊張感もあれば、メチャクチャ笑わせてくれる。ワクワクするし、ドキドキする、とにかく恰好良かったですね」
黒田硫黄『茄子』
それから玉田企画を立ち上げ、2022年で10周年を迎えた玉田真也。10周年公演の新作『영(ヨン)』は常に挑戦を求める玉田らしい、集大成と呼べる作品だった。
そんな玉田はいずれ書いてみたいなと語る作品に黒田硫黄の漫画『茄子』を挙げた。
「この作品も一つひとつが恰好良いんです。人間関係の切り取り方とか、話の構成。短編集の作品なのですが、物語の終わらせ方、絡ませ方。憧れですね。でも、たぶん今の僕が『茄子』のような作品を書こうとすると大けがしそうな気がするんです。年齢を重ねているうちに少しずつエッセンスが自分の中に蓄積されて、どこかのタイミングで書けるようになるといいなと思います」
玉田企画10周年を記念して作成されたあとがきに「集大成というのは、今まで作ってきた作品の記憶と、これからこんな作品を作っていきたいという挑戦とが混じり合っているという意味です」と記した玉田真也。
常にアップデートし、新しい作品世界をつくり続けている彼から目が離せない。
『そばかす』
主演:三浦透子
監督:玉田真也
企画・脚本:アサダアツシ
2022年12月16日(金)~新宿武蔵野館ほか全国公開。
https://notheroinemovies.com/
2022.12.19(月)
文=CREA編集部
撮影=山元茂樹