この記事の連載

ジェットコースターに乗っているような没入感

──今回の映画は音や映像の彩度にもこだわりが多く、映画館で観た時の余韻が衝撃的でした。最近は配信動画も増えていますが、劇場ならではの魅力については、どう思いますか?

 自分たちの現実からかけ離れて楽しめるような作品は、映画館の大きなスクリーンで見ないともったいないと思います。同じ部屋で同じ登場人物が会話しているだけの映画だったら、自宅の大きめの画面で観てもいいのかなと思うけど、映画じゃないと自分が100%経験できないものは、劇場で観たほうがいいと思います。

──非日常感を味わうということですね。

 そうですね。たとえばジェットコースターに乗りたいと思った時に、「YouTubeでジェットコースターに乗ったつもり」だと、1回目はおもしろいかもしれませんが、実際に乗っているわけではないので飽きますよね。顔や髪にぶつかる風の威力や、高いところから超高速で滑り落ちる音は、YouTubeで何十回見るよりも、1回自分で本物に乗ったほうがいいと思います。

 そういう意味では映画館は“ジェットコースターに乗りに行く”場所ですから、作品づくりにおいてもその臨場感みたいなものは大事にしました。今回の映画では、この“ジェットコースターに乗っている”ような感覚というか、没入感をうまく出せたのではないかと思っています。

──映画館には、画面の大きさ以外にも「わざわざ出かける」という特別感やワクワク感がありますよね。

 映画館で観る映画の醍醐味は、何といっても距離に対するスクリーンの大きさです。どんな大金持ちでも、テレビから3メートル離れて映画館並みのスクリーンで見ようと思ったら、家の壁をぶち抜くレベルの大型のモニターじゃないとあのサイズ感は出せませんよね。

 あとは、共有体験でしょうか。いまは端末ツールで見たいものがいつでも見られる時代ですが、同じものを誰かと同じ時間軸、同じ場所で見る楽しさも、人間には必要なんじゃないかと思います。そういう点でも、映画館で観てほしい作品です。

 でも、いちばん楽しんでいただきたいのは、梅安と彦次郎というおじさん二人のなんてことないシーンですかね。二人の会話では、事件のことも話していますが、よく考えたらそこで話していることって、全然活かされていなくて……。ただ酒のつまみになっているだけなんじゃないかとも思える会話もいっぱいありますが、そんななかに明日をも知れない刹那的な思いもにじみ出ていて、本物のハードボイルドって、実はこういうことなのかな、と思える作品になっています。

 そんな、ちょっとした日常の行為のなかに、魔が差すようににじみ出てくるハードボイルド感も、ぜひこの映画で楽しんでいただけたらうれしいです。

映画「仕掛人・藤枝梅安」二部作

原作:池波正太郎「仕掛人・藤枝梅安」(講談社文庫刊)

第一作出演者:
豊川悦司 片岡愛之助 菅野美穂 
(以下登場順)中村ゆり 石丸謙二郎 早乙女太一 でんでん 鷲尾真知子 田中奏生 田山涼成 板尾創路 大鷹明良 六角精児 井上小百合 若林 豪(以上登場順)
小野 了 高畑淳子 小林 薫 柳葉敏郎 天海祐希

第二作出演者:
豊川悦司 片岡愛之助 菅野美穂 
(以下登場順)一ノ瀬颯 田中奏生 石橋蓮司 高橋ひとみ 篠原ゆき子 でんでん 鷲尾真知子(以上登場順)
小野 了 高畑淳子 小林 薫 椎名桔平 佐藤浩市

監督:河毛俊作 脚本:大森寿美男 音楽:川井憲次 予告編制作:樋口真嗣 Throne Inc.
公開日:「仕掛人・藤枝梅安」2023年2月3日(金)・「仕掛人・藤枝梅安 2」2023年4月7日(金) 二部作連続公開
https://baian-movie.com/
https://www.youtube.com/watch?v=MMXenCRF87I (特報)

次の話を読む「食事の瞬間は仕掛人だと忘れられる」 『仕掛人・藤枝梅安』豊川悦司が 片岡愛之助と魅せる“食事”のぬくもり

2022.12.18(日)
文=相澤洋美
撮影=橋本 篤、山元茂樹