歌ったり踊ったりはお手のものなのでエンタメ要素の強い作品には欠かせないうえ、人間国宝を身内に持つ家柄の良さが時代劇の風雅な人物に合っているのである。
ちなみに、11月27日から上演されるミュージカル『東京ラブストーリー』(原作:柴門ふみ)で柿澤はかつてドラマ版で織田裕二が演じたカンチこと永尾完治を演じる。
それに当たり柿澤は、「これまでの僕が演じてきた役は、いろいろなアイデアやプランを仕掛けていくことが多かったので、今回は、リカや三上の出方によってリアクションやセリフの言い方が変わっていくことはすごく楽しみですね、役者として」と「プラスアクト」22年12月号で語っているほどで、俳優としては仕掛けていくタイプという自覚があるようだ。
ところが実朝の場合、今のところ受け身な印象である。そういう役柄だからそうなるわけだが、これまで彼が演じた役を振り返れば、人物の個性や能力を強く押し出してくる役が多い印象がある。
それに比べて実朝は心情や能力を内に秘めて抑制している。だからこそ、これまでの実朝のイメージであった能力のない3代目的な面とはまた違う、何か能力を持った人物に見えるのだ。
物語も終盤、3代目鎌倉殿・実朝もそろそろ…
最近の研究では実朝は有能であったという説が説かれていて、柿澤・実朝は最新説に基づいた人物造形になっているようだ。それは実朝を研究している坂井孝一が『鎌倉殿~』の歴史考証を担当しているから当然であろう。
『鎌倉殿~』の最近の放送では京の朝廷から距離をとり鎌倉幕府の自治独立を計る執権・北条義時(小栗旬)に対して朝廷に頼ろうとする実朝。それによって北条家との関係性が悪くなっていく。
11月6日に放送された第42回の冒頭では、後鳥羽上皇(尾上松也)が実朝の夢枕に立ってふたりの夢コントのようなものが繰り広げられた。
上皇役の尾上松也と柿澤は、かつてふたり芝居『スリル・ミー』(14年)、映画『すくってごらん』(21年)と共演経験がいくつかあるためか、息が合っているところを見せた。
2022.11.27(日)
文=木俣 冬