「自分がものを作る人間なので、作られたものに対する敬意が根っこにあって。ものを通して、作った人を感じる、みたいなところがあります。最近は時計だけじゃなくて、日常的に電化製品なんかにもお礼を言ってます(笑)」

 夫とのなれそめ、父親と衝突した夜のこと、子ども時代のごっこ遊び、息子とのぬいぐるみを介したやりとり……時系列関係なく並べられたエッセイの数々は、通して読むと三國さんの半生記に近い。しんどかった日々のことも書かれているのに、読んでいてどこか心温まる気がするのは、三國さんがひとつひとつの過去を慈しんでいることが伝わってくるからだ。

「つらかったことなんかは、書くことでその経験をどう考えるか、入口と出口ができるように思います。結論もみえないままに書いていくんだけど、いつの間にかなんだか見晴らしのいいところに立っている、みたいなことが多かった。書くっていうのは、ちょっとした冒険ですよね」

 タイトルの『編めば編むほど~』は本文中に出てくる言葉ではなく、タイトルのために作られた一文だ。

「私は物を作ることによって、自分の形も作っていったような感覚があるので、この『編めば編むほど』はそんな意味です。この本を読んだ人が、自分だったら何を『すればするほど』なのか、動詞を変えて考えてみることもできるのかな、と思います」

みくにまりこ/1971年、新潟県生まれ。3歳で祖母より編みものの手ほどきを受け、長じて多くの洋書から世界のニットの歴史とテクニックを学ぶ。「気仙沼ニッティング」および「Miknits」デザイナー。著書に『編みものワードローブ』『うれしいセーター』など多数。

2022.11.12(土)
文=「週刊文春」編集部