コロンと転がったようなポーズのパンダや、りりしいハシビロコウ、あくびをする犬……。刺繍作家の小菅くみさんが上梓した『小菅くみの刺繍 どうぶつ・たべもの・ひと』には、今にも湯気が立ち上ってきそうな食べ物や、帽子の飾り羽根が美しいマリー・アントワネットなど、他では見られないユニークな刺繍作品が収録されている。

 小菅さんは日本大学藝術学部の写真学科出身。動物や食べ物を捉えるタッチも写実的で、写真の世界からそのまま取り出したような、躍動感あふれるデザインが魅力だ。

「昔から、人とちょっと違うような、ユニークなものが好きなんです。刺繍というと、小花とか可愛らしいイメージのものが多いけど、そうじゃない、見た人に面白い、と思ってもらえるような作品をつくろうと心がけています。表紙の女の子の頭に乗っているのは“ふくらすずめ”という雀なんですが、彼らは雪が降ると羽がモコッと膨らんで可愛いんです。そういう変わった動物の情報も友人とシェアして、次回のアイディア用にストックしています」

 坂本龍馬や西郷隆盛も収録されているが、これはドラマ『JIN-仁-』にハマったところから作製したのだという。そもそも、刺繍を始めたのは15年前。それまでは会社員だったそうだが、作品作りを始めたきっかけは?

「当時、足が急に動かなくなる難病に罹ったんです。ベッドにいた期間、もともとジッとしているのが耐えられないタイプなので、手を動かす何かをしたい、と思って始めたのが刺繍でした。それを見た友人が、『子供の持ち物に刺繍をつけて』『セーターに何か縫って』といった依頼をくれるようになり、その時はお金を頂くでもなく縫っていたのですが、仕事にした方がいいよって言ってもらって。それでも自信が持てない私に、友人らが進んで展示販売する場を用意してくれて、展覧会するから作品作って、ってどんどん背中を押してくれました」

 ものづくり好きはおばあさん譲り。親戚にも「血を受け継いだね」と言われるそうだ。

2021.07.29(木)
文=「週刊文春」編集部