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2022年後半のイタリアは、マスクやパンデミック報道はいつの間にかフェイドアウトし、すっかり日常回帰モード。入国時のPCR検査陰性証明提示なども免除され、旅行熱を溜め込んだ欧米の観光客が続々と押し寄せている。
あたかも14世紀のペスト後に、ルネサンス運動がやってきたかの如く再生し続けるフィレンツェ。街全体がヘリテージの古都の底力は未知数だ。
パンデミックを経て、華麗に衣替えした宿泊施設のオープンが続いた。世界屈指の芸術の都でしか味わえない極上ステイを満喫したい。
フィレンツェとトスカーナの極上ステイに、おすすめの宿を6回に渡りご紹介。
ふたつの名家の姓を冠したミュージアム級ホテルが登場
◆Palazzo Portinari Salviati(パラッツォ・ポルティナーリ・サルヴィアーティ)
古都に花咲き乱れる4月の半ば、大聖堂脇から徒歩2分ほどのコルソ通りにミュージアム級のホテルがオープンした。
ここはメディチ家とともにルネサンス運動に深く関わった銀行家ポルティナーリ家の13世紀からの住まいであり、中世の詩人ダンテのミューズ、ベアトリーチェの生家でもあるという、フィレンツェ市民には思い入れ深い場所。
ルネサンス最盛期には初代トスカーナ大公コジモ1世の母方の名家サルヴィアーティ家が買い取り豪奢に増築。巨匠ドナテッロやヴェロッキオなどの調度品で埋め尽くした。これらの歴史が、このふたつの家名を冠する由来である。
薄暗いエントランスから館内に入ると、ガラス張りの天井からやわらかい光が降り注ぐメインホールでスタッフが優しく迎えてくれる。
そこは典型的なルネサンスの貴族の館に見られる青砂岩の柱廊を配置した元中庭で、中央には古代ローマ時代風の彫刻、奥の壁には中世の聖母子像のフレスコ画がさりげなく鎮座しており、古の栄華を思わせる佇まい。
館内奥にはルネサンス後期の画家アローリによる豪奢な天井画や閉ざされたままであったという礼拝堂などが美術監督局指導下で4年の歳月をかけて丁寧に修復されて復活、全館に輝きが蘇ったのだ。
2022.11.07(月)
文=大平美智子
撮影=仁木岳彦