この子はこうと決めつけずに、関係性のなかの変化で、見る側の認識を更新し続けることが大事だと思っています。

――確かに決めつけた途端に、見えなくなることって多いですね。

辻本 あと、こうあるべきと無意識に決めてしまっているルールも「見る」ことを阻害してしまうと思います。一般的に、ある種の型からはみ出した部分を「その子の特徴」と捉えがちですよね。例えばおもちゃを片付けられないとか、ダメといっても壁に落書きをしてしまうとか。

 でもそこですぐ「しつけ」をしようとせずに、そもそも落書きって本当にダメなもの? と親の側が一度立ち止まって考えてみると視野が広がります。

 じゃあ消せる画材ならOKなのか。落書きは汚い? じゃあ綺麗な絵ならOKなのか、どんな絵ならリビングの壁に描くのもありなのか? 前提のルールを取っ払って、なんでそんなに壁に描きたいのかを子どもとゆっくり話しあってみる。

 すると、なにも壁を汚したくてやっているわけじゃないかもしれない、単に親にかまってほしいから、あるいは花を描くと幸せな気持ちになるからなのかもしれない、いろんなことが見えてきます。「はみ出た部分」ではなく、本質的なところで何を考えているかに、その子の真の個性は宿っていると思います。

 そうやって個性を認められ、はぐくまれた子どもは、自分の頭で考えて行動できる人間になるので、すごく魅力的です。

 僕が今回本をつくったのは、ダンスを通した子どもの教育に関してようやく語れる年齢になったと思ったから。ダンスは自らの体とのドラマチックな出会い直しへといざなってくれます。人それぞれがもつ固有の豊かな可能性にも気づかせてくれる。本書がその契機となれば、これほど嬉しいことはありません。

プロフィール

辻本知彦(つじもと・ともひこ)
1977年、大阪府吹田市生まれ。18歳よりダンスをはじめ、2007年にはシルク・ドゥ・ソレイユに日本人男性初のダンサーとして起用され、同年『Presentation Fiat Bravo』に出演、2011年からは『Michael Jackson The Immortal World Tour』に参加し、27カ国485公演に出演する。2010年、森山未來と「きゅうかくうしお」を結成し、独自の活動を展開。NHK2020応援ソング『パプリカ』の振付を菅原小春と共作する。また、Siaの『Alive』日本版ミュージックビデオ(MV)での土屋太鳳への振付、米津玄師の『感電』MV、MISIAの『Higher Love』MV、CM「ポカリスエット」「UQモバイル」など、多岐にわたって活動する。

2022.11.07(月)
文=辻本知彦