僕は並行してアクロバットを学んでいたこともあって、異質なものをハイブリッドに融合させ、新しい表現を生むコンテンポラリーダンスに強く惹かれていったんです。

――それがシルク・ドゥ・ソレイユでの日本人男性初の大抜擢に繋がったんですね? よくぞ倍率400倍のオーディションを突破しましたね。

辻本 僕が最初にシルクのオーディションに受かった2007年当時は、世界的にみても、コンテンポラリーダンスのできるストリートダンサーに希少価値があったんだと思います。

 でも、シルク肝いりの新作『マイケル・ジャクソン ザ・イモータル・ワールドツアー』のときはわずか20人の枠に世界中から8000人もの精鋭たちが応募してきたので、最初全く受かる気がしませんでした。

 これだけのすごい踊り手ばかりのなかで、どう目立つか? そこでまず戦略的に人と違うことをしました。みんな自分の位置で踊っているけれど、僕は会場のなかを動き回って、すごい踊り手の近くにいって褒め称える動きや、ユニットとして面白く見えるパフォーマンスを仕掛けた。

 いまこのタイミングで少々塩をきかせると抜群に美味しくなる、みたいな料理のさじ加減ってありますよね。そういう塩のひと振りと同じく、全員同じタイミングで踊り出すときにワンテンポ遅らせて始めたり、みんなとは違うスピード感の動きで表現にアクセントを効かせたりもしました。

 

 オーディションに「これをやるな」なんてルールはない。他の人が不愉快にならない範囲で、「ノールール」で仕掛けたことが大きなチャンスにつながったんです。

土屋太鳳、菅原小春の振付で心がけたのは…

――「ノールール」な発想で仕掛けていくのは、その後の辻本さんのさまざまな仕事にも通じる気がします。

辻本 まさにその通りで、僕がいつも心がけているのは「まだ見たことのないものをつくる」こと。すると、おのずから「ノールール」な方法になっていく。

 たとえば、Sia『Alive』の日本版MVで、土屋太鳳さんに振付を渡すとき、まず振付をアシスタントの女性に覚えてもらって、彼女から土屋さんに伝えてもらったんです。Siaのエモーショナルな楽曲の世界観を表現するうえで、一度女性の身体を通して翻訳したほうが振付に込めた情感がより伝わると思ったから。

2022.11.07(月)
文=辻本知彦