この記事の連載

 秋といえば、芸術の秋。

 アート作品を通じて、その土地の風土や文化、歴史に触れる。そんな心が豊かになる旅に出かけてみませんか。

 青森県弘前市の弘前駅と黒石駅を結ぶ弘南鉄道弘南線ではピンク色に装飾されたアート列車《AOMORI MAPPINK MEMORY 「記憶の未来」》が11月13日(日)まで運行中。

 全国旅行割も始まったこの秋、アートを巡る旅にぴったりです。

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まさに真っピンクな“MAPPINK MEMORY”

「ピンクの列車だ!」

 この列車を見たら誰もがそう思うでしょう。ピンクの電話というのはありましたが、これはピンクの列車。地域の人々とのコミュニケーションを通して得られた「ことば」を基に作品を創るプロジェクト『Signs of Memory』などで知られる、現代美術家の原 高史氏のプロジェクト《AOMORI MAPPINK MEMORY 「記憶の未来」》の一つなのです。

「真っピンクだ!」

 列車の一両目に足を踏み入れると、まるで桃源郷。一面、桃色の世界に彩られています。

 《AOMORI MAPPINK MEMORY 「記憶の未来」》は2020年に開館した弘前れんが倉庫美術館を起点に、弘前駅と黒石駅を結ぶ弘南鉄道弘南線を中心とした周辺エリアを、アートを通じて巡りながら、その地域の魅力を再発見してもらおうというアートプロジェクト。

 運行期間中は1日最大9往復を予定(運行予定はこちら)し、窓越しにみえる津軽平野もピンク色に染めていきます。

 窓ガラスや各駅の案内板などがピンク色になっているのはもちろん、車内を見渡すと所どころに年号の表記が。

 《AOMORI MAPPINK MEMORY 「記憶の未来」》のプロジェクト名にもあるように、この列車のテーマは“タイムトラベル”。コロナ禍、戦争、災害、環境問題、仮想空間……といったさまざまな事案が氾濫し、生きることに新たな意味と価値観を見出さなければならないこの時代に、日本人に必要な生きるヒントが過去と現在と未来を繋ぐことで見えてくるのでは、という思いから誕生しています。

 これまでの原氏の作品と同様、土地への滞在とそこに住む人々へのインタビューから生まれた作品で、冬の青森の厳しい寒さの中、津軽尾上の大和温泉に立ち寄った時の地元の人との出会いから着想を得たといいます。

 ピンク色のイメージは津軽の人々の逞しさや人間力、ハートのイメージから。違和感なく決めることができたそうです。

 ピンク色の車内は幻想的な空間に包まれています。実りの秋を迎える津軽平野、津軽富士と呼ばれる岩木山もピンクのフィルターを通して眺めることで、まったく違う世界に迷い込んだような錯覚を覚えます。

 そんな現世と隔離されたかのような空間で、列車内に描かれている年号や問いかけを見ていると、自分の来し方を振り返るとともに、何か忘れていたことを思い出させてくれるようです。

2022.11.02(水)
文=CREA編集部
撮影=佐藤 亘