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 青森県を代表する名山・岩木山。その岩木山を中心にした津軽地方に古くから伝わる祭りや信仰、芸能や食文化。そんな歴史と古き良き津軽の「ものがたり」が隠れている津軽の魅力の代弁者、それが“古津軽”です。

 そんな古津軽を楽しむイベント『古津軽ウィーク2022』が2022年9月16日(金)~10月23日(日)まで開催中です。イベント中はミッションと題した69もの観光体験(ミッションごとに開催期間や条件があります)が待ち受けています。

 そんな古津軽ウィークのミッションの一つ「佐藤陽子こぎん展示館でこぎん刺し見学と体験」にCREA編集部員が参加、体験してきました!

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津軽の農民の生活から生まれた「こぎん刺し」

 さまざまな“古津軽”を巡る「古津軽ウィーク」には津軽の手仕事を実際に体験できるミッションもあります。その中でも今回は津軽地方の伝統工芸のひとつである「こぎん刺し」に注目しました。

 こぎん刺しは青森県津軽地方に伝わる伝統的な刺し子の技法のこと。麻布に木綿糸で幾何学模様を刺していくものであり、元々は保温や補強のために施されたものがはじまりと言われています。

 日本列島の最北に位置する寒冷な津軽地方では綿花の栽培ができず、綿は貴重なものでした。さらに1724年(享保9年)には津軽藩で「農家倹約分限令」が発令、農民は木綿の衣類を着用することが禁じられ、麻布を着衣として使用する生活を送っていました。

 しかし、東北地方の過酷な冬の寒さでは麻布はあまりにも辛い。そんな中、冬を乗り切る知恵としてこぎん刺しも始まったと言われています。

 こぎん刺しは津軽の農民の生活を支えた頼もしいパートナーなのです。

こぎん刺しの歴史と刺し方を学べる「佐藤陽子こぎん展示館」

 いくつかあるこぎん刺しの体験ミッションの中から今回は「佐藤陽子こぎん展示館でこぎん刺し見学と体験」にトライしました。

 佐藤陽子さんはこぎん刺しの第一人者。こぎん刺し愛好者の裾野を広げたいとの思いから、2010年に自宅の一室を改装しこの展示館をオープンしました。コロナの影響により、2年4カ月ほど休館していたそうですが、今夏から開館を再開しています。

 こちらのこぎん館では1日2組(複数人でも可)、貴重なこぎんのコレクションを見ながら歴史を学べるとともに、実際にこぎん刺しを体験することができます。

 2階の展示室には当時津軽の農民が着ていたという古作こぎんがズラリと並びます。

 ひと口にこぎんと言っても地域によってそれぞれ個性があります。模様や刺し方によって分類されており、弘前城から西の地域に伝承され、肩の部分に横縞と背中に魔除けの模様を刺すのが特徴の「西こぎん」。弘前城から見て東の地域、田園地域に伝承され、田んぼのあぜ道を模した流れ模様が特徴の「東こぎん」。旧木造町、旧金木町地域に伝承され、肩から下に特徴的な3本の縞が刺される「三縞こぎん」の3つに分けられています。

 柳宗悦氏や田中忠三郎氏らに評価されたこぎんですが、佐藤さんが開館した2010年当時は古作こぎんに対する価値観の違いや知名度の低さに来館者があるか懸念されましたが、そんな心配を余所に、開館以来こぎん展示館には約6,000人が来館、国内のみならず、海外からも多くのこぎんファンが訪れると言います。

 それもそのはず、縦糸を拾って横に刺していくこぎんの技術はデザイン性が高く、世界的にも評価されているのです。このこぎん館ではそんな貴重なこぎんを実際に触り、袖を通すこともできるというから驚きです。

2022.10.20(木)
文=CREA編集部
撮影=佐藤 亘