いくじなし目線に共感!
ごぼう巻きを食べながら、スピッツに救われた日々を思い出してみる。
人づきあいでこんがらがったとき、「Crispy」の「さよなら ありがとう 泣かないで 大丈夫さ」というフレーズを、まじないのように歌ったなあ。失恋までも辿り着けないような腰の引けた恋をしたときは、「流れ星」を、辺見えみりさんバージョンとご本家をかわりばんこで聴いたっけ。意味もなく疲れ果てていた時期、伝説の歌番組「THE 夜もヒッパレ」で、男性コーラスグループのデューク・エイセスが「チェリー」をカバーし、そのあまりにも平和で穏やかな昭和と平成の融合に泣きもした。最近ではチャンスを逃したことがあり、「みなと」を聴きつつ体を揺らし、己を慰めた。
スピッツに癒されるのは、なぜか歌の主人公が、私と同じくらい失敗していそうな気配を感じるからである。聴きながら「一緒に低めの山に登って語り合いたい」と何度思ったことだろう。
「天使」「宇宙」「神様」「魔法」などファンシーな言葉やアイテムにワンバウンドさせた、すがるような願い。本当に欲しいものを目の前にしながら、ためらってわざと寄り道してしまう「いくじなし」目線がどことなく漂い、共感を禁じ得ない!
嗚呼、油断しているとほらまたスピッツのメロディーが。彼らの歌は、思い出や夢や涙とともに、鼻と口から溢れ出る。
魔法のコートバー、口にすれば短く……。
ドラマ「silent」も、私たちが生きる現実も、やさしい展開が待っていますように。
Column
田中稲の勝手に再ブーム
80~90年代というエンタメの黄金時代、ピカピカに輝いていた、あの人、あのドラマ、あのマンガ。これらを青春の思い出で終わらせていませんか? いえいえ、実はまだそのブームは「夢の途中」! 時の流れを味方につけ、新しい魅力を備えた熟成エンタを勝手にロックオンし、紹介します。
2022.10.27(木)
文=田中 稲