いくじなし目線に共感!

 ごぼう巻きを食べながら、スピッツに救われた日々を思い出してみる。

 人づきあいでこんがらがったとき、「Crispy」の「さよなら ありがとう 泣かないで 大丈夫さ」というフレーズを、まじないのように歌ったなあ。失恋までも辿り着けないような腰の引けた恋をしたときは、「流れ星」を、辺見えみりさんバージョンとご本家をかわりばんこで聴いたっけ。意味もなく疲れ果てていた時期、伝説の歌番組「THE 夜もヒッパレ」で、男性コーラスグループのデューク・エイセスが「チェリー」をカバーし、そのあまりにも平和で穏やかな昭和と平成の融合に泣きもした。最近ではチャンスを逃したことがあり、「みなと」を聴きつつ体を揺らし、己を慰めた。

 スピッツに癒されるのは、なぜか歌の主人公が、私と同じくらい失敗していそうな気配を感じるからである。聴きながら「一緒に低めの山に登って語り合いたい」と何度思ったことだろう。

 「天使」「宇宙」「神様」「魔法」などファンシーな言葉やアイテムにワンバウンドさせた、すがるような願い。本当に欲しいものを目の前にしながら、ためらってわざと寄り道してしまう「いくじなし」目線がどことなく漂い、共感を禁じ得ない!

 嗚呼、油断しているとほらまたスピッツのメロディーが。彼らの歌は、思い出や夢や涙とともに、鼻と口から溢れ出る。

 魔法のコートバー、口にすれば短く……。

 ドラマ「silent」も、私たちが生きる現実も、やさしい展開が待っていますように。

田中 稲(たなか いね)

大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。個人では昭和歌謡・ドラマ、都市伝説、世代研究、紅白歌合戦を中心に執筆する日々。著書に『昭和歌謡出る単1008語』(誠文堂新光社)など。
●田中稲note https://note.com/ine_tanaka/

Column

田中稲の勝手に再ブーム

80~90年代というエンタメの黄金時代、ピカピカに輝いていた、あの人、あのドラマ、あのマンガ。これらを青春の思い出で終わらせていませんか? いえいえ、実はまだそのブームは「夢の途中」! 時の流れを味方につけ、新しい魅力を備えた熟成エンタを勝手にロックオンし、紹介します。

2022.10.27(木)
文=田中 稲