多様性の時代、これまでとは違うヒロイン像を模索する状況で、黒島結菜の特筆すべき点は、従来の正統的な明るさ元気さをキープしながら、常識的とされる言動の軌道を外れていくという難しいことをけろりと演じたことである。
『べっぴんさん』も『ひよっこ』も『おかえりモネ』もヒロインがおとなしくやや辛気臭いという意見があった。たいてい、何かを抱えていますよという憂い顔になるのだが、黒島は暢子をいっさいそう見せず、ひたすら明るさと元気を貫いた。自我を通し、空気を読まないことにもほぼ疑問をもたない。
最たるエピソードが幼馴染の和彦(宮沢氷魚)の恋人・愛(飯豊まりえ)に「うち、和彦くんのことが好き」「でも諦める」とわざわざ言わなくていいようなことを宣言したり、和彦の母・重子(鈴木保奈美)に毎日お弁当を無理やり届け「うちは何か間違ったことしてる?」ときょとんとするなど、当人は悪いとまったく思っていない様子が他者を苛立たせるというディスコミュニケーションの問題をその身体に引き受けて見事に演じてみせたところに、黒島結菜の俳優としての成熟を感じる。
情報番組『あさイチ』の「プレミアムトーク」に黒島が出たとき、川栄李奈が「落ち着いていて」「喜怒哀楽をあまり出さない」と証言していたように、どんなに猪突猛進の役をやっても常にどこか冷静に見えるので、本気で鈍感でただただ頭の空っぽな役に侵食されずに済んでいる。それが黒島結菜の良さではないか。
そう、よくよく考えてみると、黒島結菜は以前からそんなに単純な俳優ではなかったのだ。
悪女か聖女か? 黒島結菜の割り切れない魅力
まず、WEBドラマ『SICK'S~内閣情報調査室特務事項専従係事件簿~』(18年)の一一十(にのまえいと)。
時を止めたり巻き戻したりする能力を持っている。黒いセーラー服姿にボブヘア、手には黒いだるまを抱え、一見少女ながら大人をはなから相手にしていない超然としたところが印象的だった。一一十はもうひとり白いセーラー服バージョンもいて、悪女と聖女、微妙に表情が違っていて翻弄されたものである。
2022.10.06(木)
文=木俣 冬