黒島結菜は割り切れない俳優である。彼女がヒロインに抜擢された、朝ドラこと連続テレビ小説『ちむどんどん』(NHK)の暢子を半年間見てそう感じた。割り切れないとは要するに一言で表現できないという意味合いだ。
想像と違った…『ちむどんどん』暢子の“鈍感さ”
黒島結菜が朝ドラヒロインに決まったニュースを見たときは、こんなにも彼女を割り切れない俳優だと筆者は思っていなかった。むしろ割り切れると思っていた。
出世作『アシガール』(17年)で黒島が演じた、足軽に扮して戦国時代を駆け抜けるヒロインの明るさや健気さは竹を割ったようにきっぱりと割り切れるイメージだったからだ。愛する若君のために泥だらけになって闘う姿に、このひとが朝ドラのヒロインをやったら、どんな困難にも明るく前向きに対処して、朝、元気にさせてくれるのではないかと夢に見たのだ。
ところが『アシガール』から5年、『マッサン』(14年)、『スカーレット』(19年)とゲスト出演を経て、ついに演じる朝ドラヒロイン、彼女の故郷・沖縄が舞台となった『ちむどんどん』の暢子は何かが違っていた。
沖縄やんばる生まれの野生児的な暢子は、明るく、元気ではあるものの、少々度が過ぎる。明るさや元気さが鈍感で空気を読まず、自我を貫く方向に発揮されていたのだ。
暢子は亡き父・賢三(大森南朋)に「暢子は暢子のままで上等」「自分の信じた道を行け」と言われたこともあって、いついかなるときでもマイペース。そのため良くも悪くも空気を読まない鈍感な人物となり、最終回も近い第118回では、妹・歌子(上白石萌歌)の恋の進展に重要な一場面で、自分の食べたいゆし豆腐について語り「おとなしくしてくれない!?」と姉の夫(山田裕貴)に一喝される。
続く第119回では、ようやく歌子と幼馴染・智(前田公輝)が思いを確認し合ってひしと抱き合うかと思わせて、暢子が歌子に抱きつくという喜劇的な流れは、暢子ってほんとうに周囲が見えてないよね、うふふという『サザエさん』的に笑って流せない、ゴーヤのような苦さが残る。
2022.10.06(木)
文=木俣 冬