この記事の連載
- 小川彩佳×NHK林 理恵対談 #1
- 小川彩佳×NHK林 理恵対談 #2
女性初という冠より、多様な中での“One of them”のほうがいい
小川 林さんは今回のメディア総局長就任にあたって「女性初の総局長」とかなり報道されましたが、女性初という冠で語られるって、どういう気持ちになられるんでしょう。
林 うーん、自分ではあんまり意識がないんですよね(笑)。NHKの記者になってすぐ仙台放送局へ赴任したんですけど、その時に「仙台放送局で初めての女性記者です」と言われて。
小川 あ、その時すでに「初」。
林 その次に異動したのが政治部だったんですけど、これもNHK政治部で初の女性記者。自分では意識していないにせよ、事実としてはそうだったわけです。時を経て2017年に神戸放送局に局長として赴任した時に、「初の女性局長さんですね」って地元の人に言われて、「あ、久しぶりに聞いたな」って(笑)。それで今回は「初の女性メディア総局長」という記事とともに私の顔写真がバーッとメディアに出て。
小川 駆け巡りましたものね、そのニュースが。
林 その記事を見て初めて知ったんですよ、「え、私女性初だったんだ!」って。とはいえ、先ほども小川さんが先輩の背中を見てきたとおっしゃったように、そういう責任の重さは感じています。
ただ、同じ女性でも、本当にいろいろな仕事のやり方やキャリアの選び方があると思うんですよ。私はその中の“One of them(ワン・オブ・ゼム)”であって、すべてにおいてのロールモデルにはなりえない。小川さんのようにお子さんを育てながら仕事をするという経験が私にはありませんが、そういう先輩の背中を見たいという若い女性たちだっていっぱいいるはずです。みんな個性があって、まさに多様ですよね。ですから、私が参考になる部分があるなら、それはそれで素直に嬉しいですが、私みたいになりなさいというつもりは全然ありません。
小川 新たなキャリアを切り拓いていく最初の女性なんだっていう、そういった感覚はあまりない……?
林 ないない、全然ない(笑)。パイオニアです! みたいなこと、思ったこともありません。でも女性初だから、こういう対談の機会もいただけているんですよね。男性が総局長だったらこんな素敵な機会は得られなかったと思うので、それは本当にありがたいと思います。
――小川さんの場合は、子育てと仕事の両立という大変な毎日を過ごされていますよね。お子さんとの時間を大切にしたい、一方でもっと仕事のために使う時間も欲しい、そういう葛藤もあるのではないですか?
小川 もう本当にそのとおりで、まさに今直面している難しさですね。限りある時間をどうやりくりするかっていう。でも、そこで悩んでたときに、TBSの上司の方に、「子育ての場所、子育ての経験も一つの現場だから、その現場を今は大切にしたら」と言ってもらえたことが、私にとってとても大きくて。
親として子どもと向き合いながら感じることは、多分番組を見てくださっている子育て世代の方々と共有できる部分でもあると思うので、その時間を大切にしたいなと切り替えることができました。保育園や家事サービスにもお世話になり、だんだん無理のない形で時間をやりくりできるようになってきています。ありがたいことに職場のみなさんも家族も大きな支えになってくれていますし、もう感謝が募るばかりです。
――NHKでも首藤奈知子アナが産休から復帰して、朝早くからの番組で頑張っていますね。
小川 そうですよね! 私は産後3カ月で『news23』に復帰したのですが、出産しても同じポジションで仕事を続けていくという例が、当時はほとんどなかったんです。でも今は、首藤さんだったり、テレビ朝日の松尾さんだったりですとか、同じ立場で仕事をされている方が増えてきて、私自身にとっても励みになっています。
林さんが“One of them”とおっしゃいましたが、「○○初」という冠って、“Only one”だから言われるわけで、同じような立場の人が増えて“Only one”ではなく“One of them”になった時、その冠は外れていくんですよね。
だから、女性にとって産後の職場復帰や子育てと仕事の両立がこれから容易になり、女性の働き方がどんどん多様になることで、私ももっと“One of them”になっていけたらいいな、と思います。
林 理恵(はやし・りえ)
1986年、国際基督教大学卒業後、日本放送協会に記者として入局。神戸放送局長、国際放送局長などを経て、2022年専務理事・メディア総局長に就任。
小川彩佳(おがわ・あやか)
2007年、青山学院大学卒業後、テレビ朝日に入社。11年より『報道ステーション』サブキャスターを務める。19年よりフリーアナウンサーとなり、同年よりTBS『news23』メインキャスター。
2022.10.07(金)
文=張替裕子
写真=杉山秀樹