映画でチンピラ役になりきるために歯を抜く・削る、ゲイ役を演じるにあたって新宿二丁目に通い詰める……。役づくりにまつわる数々の逸話をもつ俳優、北村一輝さん。

 ガリレオシリーズの新作『沈黙のパレード』で重要な役割を担う彼に話を聞いて見えてきたのは、一貫した姿勢だった。

「俳優も野球選手と同じで…」

 ガリレオシリーズで北村が演じる草薙俊平は、主人公の物理学者・湯川学の大学時代の同級生。湯川の助言をもとに数々の未解決事件を解明していく刑事という役どころで、原作では湯川の相棒として描かれるが、ドラマや映画では湯川の相棒が草薙から女性刑事に変更されている。

 役づくりへのこだわりで知られる北村のこと、とくにシリーズの映像化がはじまった当初は、原作と脚本で異なる草薙役へのアプローチに苦労したのではないかと質問すると、意外な答えが返ってきた。

「役に対してどうアプローチするかは、当然ながら作品によってケースバイケース。僕はどんな作品でも、脚本を読んでまず『自分がこの作品でやるべきことはなにか』を客観的に検討します。

 たとえばガリレオの場合、第一弾のドラマや映画は福山雅治さん演じる湯川と柴咲コウさん演じる女性刑事を中心に物語が展開していく。草薙は2人のサポート役としてそばにいるくらいのスタンスでいました。

 俳優も野球選手と同じで、ホームランを打つ力があるからといって毎回4番でホームランを狙うわけじゃない。監督に『今回は2番バッターに徹してくれ』と言われたら、そうすべきだと思うタイプです。短い出演時間のなかで爪痕を残してやろう、ということも考えないですね」

シリーズではじめて「主役級の活躍」をみせる草薙

 ただし、新作映画『沈黙のパレード』における草薙の役割は、これまでの映像作品とはあきらかに違う。原作者の東野圭吾が「草薙の苦悩と友情の物語」と称する原作小説の重要な要素が映画の脚本にもそのまま反映され、シリーズで初めて草薙が主役級の活躍をみせるのだ。

2022.09.23(金)
文=「週刊文春CINEMA!」編集部