ドラマに出てくるのはいずれも身近にありそうな事件で、これは実際の弁護士が書いた本をもとに脚色したという。こんなところも共感を呼んでいるように思う。

保護者からは「現実と乖離している」という声も

 こうして爆発的な人気となる半面、実際に自閉スペクトラム症を持つ子どもの保護者からは、「現実と乖離している」という声も出ている。ある保護者は、掲示板にこう書き込んだ。

「天才とか、大手法律事務所の弁護士という社会的に上流階級への仲間入りを成し遂げたウ・ヨンウという設定自体がもやもやする。小学6年生なのにまだ排泄もちゃんとひとりでできないわが子と比べると余計にそう思う」

 韓国メディアはウ・ヨンウ人気を背景に、実際の自閉スペクトラム症の実態についてひんぱんに取り上げるようになっており、ウ・ヨンウとは比べものにならないほどの賃金の低さを調査してもいた。保護者のひとりはまたこうも書いていた。

「他人が、息子のことを、どうしてあんな風なの? と見てくる視線がしんどかった。ドラマで少しずつ慣れて、自閉スペクトラム症を持つ人への認識が改善されるなら、少しは視線が柔らかくなるのかもしれない。自閉スペクトラム症はまったく同じものがひとつもないけれど、うちの子どもを肯定的に見てくれる雰囲気が作られればうれしい」

 

 脚本家のムンは先の記者懇談会でこんなことも言っている。

「この作品は温かい、癒やしの作品ではありますが、その中にはたくさんの野心が隠れています。センシティブな素材を扱った業界の慣例に素直に従わないドラマですが、いい素材に専門家の知識が散りばめられており、視聴者がさまざまな話ができるところがあるんです」

 脚本家の思いどおり、韓国は今、ドラマを通して自閉スペクトラム症について、社会が、人がどう対応していたのか、また実際の障害者からの声が拾い上げられている。

 記事では「自閉スペクトラム症」としているが、この言葉も韓国では「自閉スペクトラム障害」と書かれる。これは、「自閉は病気ではなく障害であり、自閉症というのは差別的な表現」と障害者から声があがったためだ。

2022.08.14(日)
文=菅野 朋子