「共感とコミュニケーションに課題があっても、一部の自閉スペクトラム症者が特定分野に見せる高い集中力、そうした長所を中心にアプローチし、不足していたり、助けだけを受ける典型的な障害者という型を破りたかった。法廷に立つウ・ヨンウはテンプル・グランディン博士の講演を参考にしました」(韓国日報、7月24日)

 テンプル・グランディン博士(74歳)は自閉スペクトラム症を持つ、世界的に知られた米国の動物学者だ。

 

俳優のOKをもらうまで1年待った

 そうして作られたウ・ヨンウを演じているのは、実力派の若手俳優、パク・ウンビン(29歳)だ。6歳の頃から子役として活動し、2021年にはドラマ『恋慕』で最優秀女優賞を受賞している。制作陣は、「ウ・ヨンウを演じられるのはパク・ウンビンしかいない」とオファーし、最初は断られたが、ドラマの完成度はウ・ヨンウを演じる俳優にかかっていると1年間ほど待ったという。

 パク・ウンビンは断った理由について「良い作品だと思ったが、私はうまく演じられる自信がなかった。誰も傷つけず、どんなことにもひとつも障りなく演じられるのかと思ったら怖くなった」(雑誌『Allure Korea』)と話している。

 このパク・ウンビン演じるウ・ヨンウの愛おしさは格別だと思いながら筆者はドラマを観ていた。1話に出てくる回転ドアが抜けられないウ・ヨンウが、同僚にワルツのステップで入るのはどうかとアドバイスされ、実際にリズムとりながら意を決して入って行く姿はとてもかわいらしい。けれど、ウ・ヨンウは後にこうつぶやいた。

「私の名前は、英に禑。花のようにきれいな、福をもたらす人という意味です。でも、怜悧の怜に愚かな愚がもっと合っているのではないでしょうか。回転ドアも通り抜けられないウ・ヨンウ。怜悧で愚かなウ・ヨンウ」(朝鮮日報、7月24日)。

 この言葉で、自閉スペクトラム症者への筆者の視線にも気づかされた。

2022.08.14(日)
文=菅野 朋子