どのシーンの演技も一発オッケー
草彅 でもさ、その場でもっと感想を言いたかったのに、「ちょっとごめん」みたいな感じで、すぐ女優さんと喋りに行きましたよね。
金沢 貫地谷しほりさんが号泣してらしたんですよ。剛さんとはお話しする機会がちょくちょくありますけど、貫地谷さんはあの時聞いておかないと、涙の理由がわからないぞと思ったんです。
草彅 そう? 女優さんと喋るほうがいいんだなと思ってたけど(笑)。
金沢 違う違う!! ええっと、話を戻していいですか?(笑)この映画は僕にとって初めて監督する作品で、しかも相手は「草彅剛」。ずっと一緒にやりたい、脚本を書いてみたいと思っていた俳優なんです。自分の書いたセリフを読んでもらえることだけで、めちゃくちゃありがたいんですよ。
でも、現場に出たらありがたがるだけじゃなくて、演技で気になることがあったら怖くても言おうと決めていました。そうしたら、僕の想定を全部超えてくるんです。どのシーンの演技も一発オッケーで。
草彅 そうでした?
役の中に「人」が出ているところが好き
金沢 完璧でした。ただ、剛さんのほうから「ごめんなさい、もう一回やらせてもらっていい?」と言われたシーンがあるんですね。剛さんが娘役の女の子と一緒に公園にいる、何気ないシーンでした。僕としてはオッケーだったと思ったから、「どうしたんですか? 剛さん」と聞いたら、「欲が出た」と言ったんです。たぶん、「芝居しちゃった」って意味なのかなと。
草彅 たぶん、そうかな。それで、もう一回やったんですよね。
金沢 言葉で説明しろと言われたら難しいんですが、確かに2回目の方が良かった。
草彅 あそこは娘役の女の子と、初めてお芝居するシーンだったんです。子供って素朴で、そこが素晴らしいから、僕がお芝居お芝居しているとダメだったんですよね。例えば声のトーンも「こうやったほうがお父さんに聞こえるんじゃないかな?」とか考えていたんだけど、ちょっとわざとらしかった。もっとフラットな感じのほうがいいなと思って、「もう一回やらせて」とお願いしたんです。
2022.08.12(金)
text=Daisuke Yoshida
photographs=Takuya Sugiyama
hair&make-up=Eisuke Arakawa
styling=Akino Kurosawa