ばらばらに見える各編は北斗七星を構成する七つの星だ。それぞれ別々の星がつながってひとつの星座になる。北極星という唯一無二の星の周囲を回る北斗七星は、自らが北極星になることはなくても、七つの星がつながることで他のどの星座にも負けない豊かな物語を湛えるのである。

 それがわかるのが、すべての話の後日談であり未来への旅立ちの物語でもある最終話「リフトオフ」だ。星がつながるように人がつながり、物語がつながる。なぜ星なのか、なぜ北斗七星なのかが、最後の一編で明らかになる。実に見事。

 他者と自分を比べて劣等感を抱いたり、何者かにならねばと焦ったりしている人に、ぜひお読みいただきたい。乾いた心に沁み込む連作短編集である。

かのうともこ/1966年、福岡県生まれ。92年「ななつのこ」で鮎川哲也賞を受賞し作家デビュー。95年「ガラスの麒麟」で日本推理作家協会賞(短編および連作短編集部門)を受賞。著書に『二百十番館にようこそ』『無菌病棟より愛をこめて』など。
 

おおやひろこ/1964年生まれ。書評家。著書に『読み出したら止まらない! 女子ミステリー マストリード100』など。

2022.08.11(木)
文=大矢 博子