9月中旬の中秋の名月。夜空に浮かぶ神々しいまでの満月に、心奪われた人も多いでしょう。親しい人とワイングラスを傾けながら、お月見をした人もいるはず。さて今回は、月とワインの不思議な関係についてお話ししたいと思います。

変わりゆく月の姿を眺めながら、月の運行に基づいて作られたワインを嗜むのも一興!

月、惑星、星座の位置を記した農業カレンダーで作られたワインも

 ワインの起源はとても古く、人類の歴史と共に存在するといっても過言ではありません。占星術の始まりとされるメソポタミア地方でも、紀元前4000年頃には、既にワインの醸造が始まっていました。メソポタミアに住む人の中には、開かれた空の下で星や月の観測を行った人々がいます。それは世界最古の占星術師たち。彼らは、夜毎にその姿を変える月を観測し、暦を作り上げ、月や星と地上の植物、人間との関係について研究を重ねたのです。

 もしかして彼らは、天体観測の合間に、その土地で作られたワインを飲んでいたかもしれません。そう考えると、ちょっと楽しくなりませんか?

 ワインに関する世界最古の文献は、紀元前2000年頃に書かれたシュメール語の粘土板だと言われています。英雄物語『ギルガメッシュ叙事詩』の中には、王が大洪水に備えて方舟を作らせた際に、船大工たちにワインを振る舞ったという場面が出てきます。この『ギルガメッシュ叙事詩』は、占星術に関する最古の文献としても有名です。聖書にも出てくるノアの方舟にまつわる洪水は、「太陽と月、およびほかの惑星の合の結果である」と記されています。

フランスのビオディナミ先駆地、アルザス地方のビオディナミスト、マルク・テンペ氏のワイン

 前置きが長くなりましたが、ここ数年、自然派ワインと呼ばれるものが静かなブームになっています。エコロジーへの関心が高いヨーロッパのワイン農家の中から、化学肥料や農薬を使わないビオロジック(有機農法)で、ワインを作る人々が増えてきました。

 その中でもさらにビオディナミとよばれる農法で、ワインを作る人々がいます。これはオーストリアの人智学者、ルドルフ・シュタイナー(1861~1925)が提唱した農法で、ビオロジックと“農薬を使わない”は共通項ですが、大きく違うのは農作業を月、惑星、星座の位置を記した農業カレンダーに則って行う点です。このカレンダーには、月の満ち欠けに基づき、種まきやぶどうの収穫、さらにはワイン熟成用に使う樽のオーク材の伐採に至るまで、農作業のスケジュールが記され、ビオディナミのバイブルとなっています。

 またヨーロッパには、ビオディナミを正しく定義づける認証団体があり、その名前はギリシャ神話の豊穣の女神デメテール(占星術では乙女座のシンボル)にちなんで「デメター(DEMETER)」といいます。デメテールは母性の象徴でもあるので、月とも関係が深い女神です。

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2013.10.01(火)