文学史に名を残す多くの文豪たちはお気に入りの宿に籠もり温泉に癒やされ、地の料理を味わいながら数々の名作を生み出してきた。

 創作意欲を掻き立てた宿に泊まり、文豪たちの軌跡を辿りたい。

“神の島”、唯一無二の美しい風景に癒やされる

●みやじまの宿 岩惣[広島/若宮温泉]

 日本三景安芸の宮島として親しまれる厳島(通称・宮島)。ユネスコ世界文化遺産に登録された嚴島神社の御神山・弥山の麓に広がる景勝地、紅葉谷公園に佇むのが安政元年(1854年)創業の「みやじまの宿 岩惣」。その宿泊名簿には、皇族をはじめ多くの文人や国内外の著名人が名を連ねる。

 文人たちも愛したもみじ谷の四季折々の自然を、そこに溶け込むように建てられた宿の客室から眺め、紅葉谷川のせせらぎを聞きながら静かに過ごすのがこの宿の醍醐味。

 もみじ谷の木々に囲まれた露天風呂では、散歩中の鹿に出合えることもあるとか。伝統建築の「はなれ」、一室ごとに意匠の異なる「本館」など、好みにあった部屋から選べるのも嬉しい。

ゆかりの文豪

森鴎外
夏目漱石
高浜虚子
斎藤茂吉
吉川英治
etc.


昭和27年(1952年)、もみじ谷の深い緑のなかに佇む離れ「洗心亭」に逗留した吉川英治は、ここで歴史大作『新・平家物語』を執筆。

みやじまの宿 岩惣

所在地 広島県廿日市市宮島町もみじ谷
電話番号 0829-44-2233
宿泊料金
◆1室1名利用時の1名最低料金 (1名利用は通常期のみ、平日、休前日ともに)33,000円~
◆1室2名利用時の1名最低料金 (平日、休前日ともに)25,300円~(すべて入湯税別)
ひとり対応 通年(除外日あり)
客室数 38室
食事 夕:食事処/朝:食事処
チェックイン 15:00/チェックアウト 10:00
アクセス JR宮島口駅より徒歩約5分の宮島口桟橋より連絡船で宮島桟橋まで約10分、下船後送迎あり(要予約)
http://www.iwaso.com/
●Wi-Fiあり

文豪を魅了した京普請の貴重な建築と温泉

●福住楼[神奈川/箱根 塔ノ沢温泉]

 江戸時代より箱根七湯の一つとして数えられた温泉場、塔ノ沢温泉にある明治23年(1890年)創業の温泉旅館。京普請の数寄屋造りの貴重な建築物として2003年に国の登録有形文化財に指定された。特に、希少な竹や銘竹を使用して施された細工や意匠は、一見の価値あり。

 17室すべての客室の間取りや造作が異なることも魅力だ。多くの文人墨客の定宿として愛され、島崎藤村は「松二」、川端康成は「桐三」など、それぞれがお気に入りの部屋を指定して逗留した。「松二」は、自伝小説『春』に登場する部屋のモデルといわれている。

 宿自慢の温泉は、源泉を天然の湧水で調整して24時間湯船に注がれ、アルカリ性単純温泉のやわらかな湯が優しく疲れを癒やしてくれる。

ゆかりの文豪

島崎藤村
川端康成
大佛次郎

福住楼

所在地 神奈川県足柄下郡箱根町塔之澤74
電話番号 0460-85-5301
宿泊料金
◆1室1名利用時の1名最低料金 (平日)31,900円~(休前日)34,100円~
◆1室2名利用時の1名最低料金 (平日)25,300円~(休前日)27,500円~
ひとり対応 通年
客室数 17室
食事 夕:部屋/朝:部屋
チェックイン 15:00/チェックアウト 10:00
アクセス 箱根登山鉄道箱根湯本駅より徒歩約15分
http://www.fukuzumi-ro.com/

2022.09.12(月)
Text=Motoko Saito

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※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

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