途方もなく広大な桑田の歌詞世界の中で、最も大きな区画を占めている情緒・情感は「センチメント」と「メランコリー」である。そして「誘い涙」「みぞれまじり」「泣かせ文句」はすべて、その区画にすっぽりと収まる。
桑田語の特性は、リズムとメロディ優先で、ある種後付け的にでっち上げられた言葉だったとしても、その意味内容が、感覚的に伝わってくるところである。そして、その代表例が先に分析した《勝手にシンドバッド》の「胸さわぎの腰つき」だ。
繰り返すが、サザン/桑田佳祐はメジャー過ぎるがゆえに、その言葉の独創性が見えにくくなっている。だから、桑田語の凄みを感じるためには、意識的に歌詞を読み直さなければいけない。この本が、「桑田語読み直しムーブメント」のキッカケの1つとなれば嬉しい。
今回見たように、《いとしのエリー》たった1曲の中にも「誘い涙」「みぞれまじり」「泣かせ文句」という強烈な桑田語が並んでいた。これらは、言ってみれば、日本語ロックにおける「言語革命」の痕跡である。
「ポップスは常に自由でなくちゃいけません」…日米の権力者たちを批判する“唯一無二のミュージシャン”桑田佳祐の根本思想 へ続く
2022.07.11(月)
文=スージー鈴木