ポイントは、英語の使い方が、何というか洋楽的なところである。口語的と言い換えてもいい。つまり洋楽が血肉化した日本人にしか書けない/歌えないフレーズ。

 1979年、私は中学1年生だった。当時買った学習雑誌に、ヒット曲の英語フレーズを和訳するという記事があり、その中で、「♪エリー my love so sweet」とゴダイゴ《ビューティフル・ネーム》(1979年)の「♪Every child has a beautiful name」が取り上げられていた。

《ビューティフル・ネーム》の方には、「everyを使った場合、動詞は三人称単数のhasとなる」などの、もっともらしい解説が付いていたのだが、《いとしのエリー》の方は、ひどくシンプルな直訳で「エリーは私の恋人、とても可愛い」と添えられていたように記憶している。

 それを読んで、中1の私は「サザンの方が洋楽っぽい、ロックっぽいんだな」「あのコミックバンドのようなバンドの桑田佳祐という人は、洋楽が血肉化しているんだな」と直感したのである。

 

《いとしのエリー》の初披露は、桑田佳祐23歳の誕生日を目前にした1979年の2月20日に日本武道館で行われた、FM東京(当時)『小室等の音楽夜話』の放送1000回記念コンサート。そのときの音源を私は持っているが、おそらくコミックバンド性を要求していた客席と《いとしのエリー》とのギャップが激しく、あまり反応は良くなくシーンとしている。

 しかしその静かな客席に耳を澄ませてみると、しっかりと聴こえてくるのだ。日本のロック史がググッと動いていく音が。

曲調は「うっすらレゲエ」

「笑ってもっとbaby むじゃきにon my mind」

 桑田佳祐本人が言うように、《いとしのエリー》を作る上でのモチベーションとして、ビートルズへの憧れがあったと思う。ただし、だからと言って「まんまビートルズ」にならないのが、若き桑田佳祐の一筋縄では行かないところだ。

2022.07.11(月)
文=スージー鈴木