つまり、ニーニーには実在のモデルがいて、ある程度リアルな設定らしいのだが、「憎めないトラブルメーカー」とされるその人間的魅力が地域や世代のギャップを超えて伝わってはいない。というか脚本や演出の意図が伝えられていない。
「#ちむどんどん反省会」タグでは「ニーニーが山口県阿武町の誤入金事件で逮捕された男性とかぶる」という声も。たしかに、自分のものではないのに手元に入った金をギャンブルに使ってしまうような人物は、コロナ禍と円安と物価高で多くの人の生活が苦しくなっている現在、笑って見てはいられない。
朝ドラ脚本が難しいワケ
朝ドラ反省会のハッシュタグは、2015年度前期の「まれ」のときから目立ち始め、2016年度前期の「とと姉ちゃん」や2018年度前期「半分、青い。」の放送時もなかなかに盛り上がってしまっていた。傑作と言われた前作「カムカムエヴリバディ」のときでさえあった。そこでダメ出しされるのは、まず脚本家だ。
「ちむどんどん」の羽原氏は、2014年度後期にニッカウヰスキー創業者をモデルにした「マッサン」の脚本を書いており、そのときはここまでの批判は浴びていなかった。それは「夢に生きる不器用な日本男児」(制作発表時のPR文)である主人公に脚本家自身、惹かれるところがあり、リアリティを構築できたからではないだろうか。
対して、「ちむどんどん」は羽原氏に依頼された段階で「沖縄出身のヒロインが料理店を開く」という設定が既に決まっていたという(公式ガイドブックより)。そこに羽原氏が仕事という枠を超えて思いを込められる何かがあったかは不明だ。作家性と言ってもいいその「何か」が半年間展開する朝ドラには不可欠で、主人公の暢子よりも、むしろ亡き父を投影した賢秀こそが主軸に据えたかった人物なのかもしれない。
また、仲間由紀恵演じる優子は沖縄戦を経験したという設定で、深いトラウマを抱えている様子。今後、描かれる予定の優子と夫・賢三の過去こそが、沖縄の苦難の歴史を背負ったストーリーになり、そこでこそ映画『パッチギ!』『フラガール』などで昭和の人間群像をリアルに描き出した羽原氏の手腕が発揮されそうだ。
2022.05.25(水)
文=小田 慶子