凄腕のスナイパー、赤井秀一と彼のファミリー、そして祭典とリニアを標的にするテロリストとのスペクタクルを描く作品の中では、ある意味では浮いたシーンと言えなくもない。

 だが昼間の映画館で、周囲を子供たちに囲まれて見た観客には、そのシーンがどんなに大切なシークエンスであり、『名探偵コナン』の根幹を支える要素であるかを感じることが出来たのではないかと思う。

 

 名探偵コナンという日本漫画史上有数の成功を収めたシリーズの特色の一つは、それが推理漫画である以上に低年齢層向けの学習漫画でもあることだ。

 劇中で園子は、歩美・光彦・元太の小学生たちにチケットを賭けたクイズをしているように見せかけながら、実はヒントを出しつつ子どもたちを教育し、チケットを譲る。そしてそれは劇中の少年探偵団だけではなく、劇場の幼い観客たちに向けた、リニアモーターカーというシステムの説明と教育でもあるのだ。

『ハロウィンの花嫁』と「コナンの世界観」

 観客がファン活動や二次創作を通じてコナンというコンテンツを育ててきたように、コンテンツもまた豊かなファン層を育てた。

 実は最新作『ハロウィンの花嫁』の広告戦略をめぐっては、SNS企画をめぐり少しばかりの波乱があった。ムビチケと呼ばれる前売り券で投票できる「女性キャラクターの中から理想の花嫁を選ぶ」という企画にかなりの批判があったのだ。

 近年、創作コンテンツをめぐってジェンダーの観点が論争になるケースは多い。だがそうした論争は通常、外部からの批判に対してファンが反発して反論するという構図になることが多い。

 今回のコナンの「理想の花嫁」企画について興味深かったのは、学者や弁護士やフェミニストによる外部からの批判よりも、ファンの側から批判が起き、またそれに対して「自分は投票したい、何が悪い」というファンの声もそれほど多くないまま、コナンファン内部の空気を見て企画側が取り下げる空気になっていったという展開になったことだった。

2022.05.01(日)
文=CDB