『緋色の弾丸』の興行収入成績が意味するものは、単体としての成績が下降したことではなく、劇場版名探偵コナンシリーズの異常とも言える安定性、日本の映画観客に完全に定着した根強さである。「あの逆風の中で70億を超えるのか」と映画関係者は舌を巻いたのではないかと思う。

映画の常識から外れた『コナン』シリーズ

 映画は当たり外れがあり、前作がヒットしても次は分からない、続編を作り続ければ飽きられて成績が下がっていくというのは映画興行の常識である。だがコナンシリーズはその常識から明らかに外れた、とてつもなく高いレベルでの安定性を手にしている。

 

 おそらく、日本がよほどの大災害にでも見舞われない限り、2021年以上の逆風がコナンの映画に吹くことはないだろう。緊急事態宣言のど真ん中で70億を超えた『緋色の弾丸』は、何が起きてもコナンシリーズだけは大丈夫、日本の映画産業を支えうるという強靭さを見せつけた作品といえる。

『緋色の弾丸』の内容にも、2021年という時代の痕跡は深く刻まれている。作品の中で開催されるWSG、ワールドスポーツゲームスという祭典は、言うまでもなく東京五輪を思わせるものだ。

 五輪という組織は名前を使うことにさえ非常に権利が厳しいため、あえて架空のイベントという設定にしたと思われるが、知っての通り新型感染症により、東京五輪の延期と『緋色の弾丸』の延期が交差し、最終的には2021年で落ち合うという結果にもなった。

『コナン』はなぜ史上有数の成功を収めたのか

『緋色の弾丸』を地元の映画館で見た時、忘れられないシーンがあった。

 劇中で毛利蘭の親友・鈴木園子は、真空超電導リニアに乗るチケットを賞品に、歩美・光彦・元太の小学生3人組、いわゆる少年探偵団にクイズを出す。それは「リニアモーターカーがどのような原理で動いているか」をさりげなく説明しつつ、医師・弁護士・宣教師のなぞなぞのような言い換えをからめた言葉遊びのようなクイズだ。

2022.05.01(日)
文=CDB