小笠原の魅力は“イレギュラー”がたくさんあること

 とはいえ、冬は冬で、大イベントがあります。それはホエールウォッチング! ウェザーステーション展望台から眺めていると、大海原のあちこちでブロウ(潮吹き)や、時にブリーチング(背面ジャンプ)を見ることも。双眼鏡、必携です。

 東京から船で24時間。特別な場所であり、暮らすのが大変そうでもある小笠原。それでも島に魅せられて移住した多くの方々がいます。

 その魅力について、竹ネイチャーアカデミー(http://take-na.com/)主宰の竹澤博隆さんにお話をうかがいました。

 竹澤さんが初めて小笠原を訪れたのは高校2年生の時。虫好きが高じて、それまでも離島は体験していたけれども、はじめて「住みたい」という気持ちが芽生え、帰る日に波止場で号泣したのを覚えていると、いいます。

 小笠原にはまった理由は、自然について言えば、“イレギュラー”がたくさんあること。

 いつ行ってもギンガメアジの群れが渦巻いているので飽きてしまう。けれど、無欲でいると、突然とんでもないことが起きるのが小笠原だといいます。

 南島での、ある日。たまたまオキアミ(甲殻類)の大量発生に出くわし、それを狙ったジンベエザメと1時間も一緒に泳いだとか。その間にマンタが2匹、イルカにムロアジの大群が登場。同じ画角に、海のスーパースターたちが勢ぞろいしたそう。アンビリーバブル、です!

 また、小笠原は沖縄のジャングルに比べて、生物の種類数が少ないそうです。それだけ種が絞られている。そこにも生物の力強さを感じ、いかに進化していったか、その過程を想像することができる場であるといいます。

 たとえば、小笠原にカブト虫はいないけれど、クワガタはいる。

 どちらも硬い羽なので、1000キロを飛来して上陸することは難しい。土に暮らすカブト虫は海に土砂が流れ込んだ時点で死んでしまう。けれど、朽木に生息するクワガタは流木に乗って海を渡ってきたのかもしれない。

 そしてもし、津波が起きたのなら、同じエリアから同種が一気に運ばれてくる可能性も生まれてきます。小笠原にたどりつくものと、つけないもの。生きるために進化するものと、消えるもの。自然の篩(ふるい)が、この島では感じられます。

 ところで。今、小笠原で注目を集めているのが、「USK Coffee」(https://uskcoffee.com/)

 なんとコーヒーの豆を育て、手摘みし、焙煎し、ドリップまでして、農園内のカフェでサーブしてくれます。

 本来ならブラジルやらジャマイカやら遠方のコーヒー農家、輸入する商社、コーヒーを提供するカフェといった複数の仲介が入るところ、数10メートルの距離内で完結しているのです。代表の宮川雄介さんは、「自分の手でやれるそれがシアワセなこと。楽しいし」と。

 しかもナチュラルプロセス(果肉を付けたまま乾燥させ)、さらに今年から天日干しの前に“発酵”という過程をプラスするという、新たな挑戦をしています。発酵中はキャラメルのような香りが畑に漂うのだとか。

 もう一度、夏の小笠原へ。次回は2航海分かな。

父島

●アクセス 東京・竹芝桟橋から小笠原海運のおがさわら丸で約24時間

【取材協力】

野元写真事務所
https://mananomoto.com/
小笠原村観光協会
https://www.ogasawaramura.com/

古関千恵子 (こせき ちえこ)

リゾートやダイビング、エコなど海にまつわる出来事にフォーカスしたビーチライター。“仕事でビーチへ、締め切り明けもビーチへ”をループすること1/4世紀あまり。
●オフィシャルサイト https://www.chieko-koseki.com/

Column

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2022.04.23(土)
文・撮影=古関千恵子