林真理子さんによる「週刊文春」の大人気連載エッセイをまとめた『カムカムマリコ』。皇族の縁談について描いた『李王家の縁談』の著書もある林さんは、小室圭さん、眞子さんのご結婚に向けられる「反対派の過激な意見」に驚きます。オリンピック開催や眞子さんのご結婚への反応について、「リトマス紙のようなものかもしれない」と語るエッセイ「九月一日」をご紹介します。

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九月一日

 9月1日というのは、私にとって特別の日である。

 亡くなった両親の誕生日だからだ。人に話すとウソ! と言われるのであるが、二人は同年同月同日、全く同じ日に生まれているのである。しかし性格は全く違い、生前は本当に気の合わない夫婦であった。

 そして大正4年生まれだから、9月1日の関東大震災を体験している。

 母の話によると、学校から帰り、配りものの紙をぽんと畳に投げたとたん、天地がひっくり返るほどの揺れが起こり、あの時は心底驚いたそうである。これは山梨での話。

 東京の下町生まれの父ははるかに深刻であった。地震直後、父は祖父の命で裏のせんべい屋に走った。そしてありったけのものを買い、それを担いで後楽園の林に逃げたそうである。大量のせんべいは人にも分け、自分たちも囓って生き延びたという。

 もっとたくさんのことを聞いておけばよかったと思うものの、もう二人はあちら側に行ってしまった。

「孝行のしたい時分に親はなし」

 というけれど、

「昔話聞きたい時分に親はなし」

 ということか。しかし若い時に、親の昔話を聞きたい子どもがそういるとは思えない。説教が混じってくるから、うざったらしいだけである。

 

このコロナ禍、日本はよくやった

 最近私は、このオリンピック、パラリンピックが、後の世にどんな風に伝わるのかを考えるようになった。

「大成功」とまでは言わないけれど、このコロナ禍、日本はよくやったと思う。最初はあれだけ叩かれたけれども、朝日新聞以外マスコミはみんな「手のひら返し」になり、いつのまにか「熱狂」と「感動」を繰り返すようになった。「やってよかった」という声は、読売新聞調べで64パーセントにも達した。

2022.03.29(火)
文=林 真理子