「職業性ジストニア」という病気と判るまでに4年かかりました。ほかのことは普通にできるのに楽器を吹くことだけができなくなるとか、文字が書けなくなる、ゴルフができなくなるという病気は実際にあるのです。病名が判ると不思議にホッとするもので、これは脳の病気だということを聞いて腑に落ちた感じがしました。原因は、反復練習をし過ぎることもそのひとつと考えられますが、はっきりとは分かっていません。
ですから『あさイチ』(NHK)に出演した際、「ジョーは働いていない」という非難に対して、思わず「ジョーを責めないで」と言ってしまったのです。ジョーが無職であることが話題になったら、ネタバレにならないように「今後のジョーに期待してください」とだけ言おうとドラマ班のプロデューサーと打ち合わせしていたのに、生放送のトークは何が起こるか分からない。ジャズのセッションみたいです。
ジョーは「育メン」 るい夫婦は「足るを知る」
るいが、トランペットを吹けなくなったジョーと結婚したのが1964年。そこから20年以上、確かにジョーは働いていません。当時は高度成長期で、男は働いてナンボの時代。僕の父も朝から晩まで働きどおしで顔を合わせない日も珍しくなかった。働かないジョーに、世間の風当たりは強かったはずです。
しかし、ジョーは今でいう「育メン」です。不器用ながらも自分にできることをやりつつ、精いっぱい家族を愛している。藤本さんは、ここは社会性のある題材の球を投げてきたと思いました。今では「ジェンダーレス」の概念が世間的な認知をされ、女性が働いて男性がそれをサポートしていたとしても本人たちが納得して幸せなら何の問題もない。るいとジョーのように常にお互いに優しく、あんなに楽しく子育てができている家庭はとても素敵ですよね。
視点を変えて、るいは、つつましい生活こそが幸せだと思っている。「足るを知る」を体現しています。これもまた「どこであなたは幸せを感じますか?」という、藤本さんからの投げかけとして僕はとらえています。
※全文は発売中の『週刊文春WOMAN vol.13(2022年 春号)』にて掲載。
Text: Atsuko Komine
2022.03.31(木)
文=小峰敦子