書そのものから料紙まで、変化のグラデーションも楽しんで

 第3章の「信仰と書」は仏教伝来以来書き写されてきた経典の中から、切り箔や砂子、金銀泥で匂い立つような装飾が施された料紙に、丁寧に書き綴られていった華麗な装飾経を紹介する。中でも圧巻は、貴族を押さえて政権を握り、栄華の絶頂にあった平家が、一門の総力を挙げて制作させた《平家納経》だ。また絵画資料がほとんど残っていない平安時代の風俗画や風景画を下絵として法華経を書いた《扇面法華経冊子》も見逃せない。

国宝「扇面法華経冊子(巻第一)」 平安時代・12世紀 大阪・四天王寺蔵 (巻第一は7/13~7/28展示、観普賢経は7/30~8/12展示)

 続く第4章「高野切と古筆」では、『古今和歌集』を写した、現存する最古の写本であり、かなの最高峰と称される《高野切》の、各地に分蔵される断簡を紹介するほか、3人存在する《高野切》の書き手が別に手がけている《和漢朗詠集》や《十巻本歌合》、それに続く平安時代末期の流麗な古筆を堪能できる。

 そして第5章「世尊寺流と和様の展開」では、三跡の1人である藤原行成の子孫が展開した流儀の書の変化と影響を、それぞれ紹介する。

国宝「古今和歌集(元永本)」 藤原定実筆 平安時代・12世紀 東京国立博物館蔵 (会期全日展示。頁替あり)

 それぞれの作品紹介やエピソードを書き始めればきりがないが(それも楽しいのだけど)、まずは書そのものを見て感じること、そして時代が変われば文字も、料紙の雰囲気さえ変わってしまう、その変化のグラデーションも含めて、楽しんでほしい。

特別展「和様の書」
The Beauty of Japanese-style Calligraphy

URL wayo2013.jp
会場 東京国立博物館 平成館
会期 2013年7月13日(土)~9月8日(日)
休館日 月曜日 ※8月12日(月)は開館
料金 一般1500円ほか
問い合わせ先 03-5777-8600(ハローダイヤル)

橋本麻里

橋本麻里 (はしもと まり)
日本美術を主な領域とするライター、エディター。明治学院大学非常勤講師(日本美術史)。近著に幻冬舎新書『日本の国宝100』。共著に『恋する春画』(とんぼの本、新潮社)。

Column

橋本麻里の「この美術展を見逃すな!」

古今東西の仏像、茶道具から、油絵、写真、マンガまで。ライターの橋本麻里さんが女子的目線で選んだ必見の美術展を愛情いっぱいで紹介します。 「なるほど、そういうことだったのか!」「面白い!」と行きたくなること請け合いです。

2013.08.10(土)