衰えが目立ち始めた風太
そんな風太夫妻や子供達にも老いは訪れる。
「物おじしない肝っ玉母さん」(濱田さん)だったチィチィが2015年7月、12歳で急逝した。「年齢のせいで何回か調子が悪くはなっていたのですが、急に体調を崩して死んでしまいました。腸閉塞でした」と濱田さんは話す。
その日、チィチィがバタバタと介抱されていた寝室に風太は入って来なかった。「やっぱり異変を感じていたのでしょう」。濱田さんはしんみりと語る。
跡継ぎのクウタも2020年12月、同じ12歳で死んだ。肺にうみがたまったせいだった。
風太自身に衰えが目立ち始めたのは、濱田さんが他の動物の担当に移った2019年頃からだ。
右目が白内障になった。
「大好物のリンゴを取りに来る時、治療薬の目薬をスプレーでシュッと吹き掛けていました。でも、液体が掛かるのが嫌だったのでしょう。繰り返しているうちに、リンゴを取りに来なくなってしまいました。治療薬と言っても、治すわけではなく、病気の進行を止めることしかできません。リンゴを食べなくなるほどのストレスになるなら、目薬は止めようと当園の獣医と相談して中止しました。この頃から風太の動きが少し緩慢になりました」と濱田さんは語る。
2020年12月にはエサが食べられなくなった。
園内の獣医が診察すると、歯ぐきの奥の方にうみがたまっていた。なかなか治らないので同園の動物病院に入院し、切開してうみを出す外科手術を行った。縫合した糸を抜くまで時間がかかっているうちに、今度は皮膚病になった。また入院治療が必要になった。
展示再開後は走ると転ぶような状態だった
動物はエサが食べられないと命に関わる。
今春担当になった水上恭男さん(55)は「一時はかなり残していました。口が痛いし、体力も弱っていたのでしょう。7kgあった体重は6kgに落ちてしまいました」と話す。そのまま食べられなければ衰弱しかねない。水上さんは心配した。ところが、退院させてレッサーパンダ舎に連れて戻ると、エサを完食するようになった。
2022.01.11(火)
文=葉上太郎